今回、「THE W」の決勝に上がったメンバーの中にも、いろいろな背景を持った芸人がいた。例えば、鉄道ネタを披露したピン芸人のそのこは元自衛隊員だ。陸上自衛隊に16年間勤務した後、養成所を経て芸人デビューを飾った。安定した地位を捨てて笑いの世界に飛び込み、芸歴半年でファイナリストに上り詰めた。

 123☆45(イズミヨーコ)は岩手出身のイズミと東京出身のヨーコの2人組。イズミの方言を生かした漫才を持ちネタにしている。彼女たちはコンビを組んでから一度解散しており、イズミは地元に帰って実家の里山管理の手伝いをしていた。だが、「THE W」で女性芸人が活躍しているのを見て再び闘志が湧き上がり、この大会に出るために再結成を果たしていた。

 つぼみ大革命は9人組のアイドルユニットだ。吉本興業に所属している彼女たちは「お笑いもできるアイドル」というのを売りにしている。しかし、お笑いを専門にする事務所であるため、アイドルである彼女たちは不遇な立場に置かれている。収入も満足にない現在は、築65年のアパートでルームシェアをして暮らしている。吉本発のアイドルということで、彼女たちはお笑いにも真剣に取り組んできた。9人という人数を生かしたコントは決勝の舞台でも高く評価された。

 世間では「女性芸人は自虐ネタが多い」などと言われることもあるが、少なくとも今年の「THE W」の決勝を見て、そう感じる人はほとんどいないのではないか。むしろ、どうしても設定や構成が似通ってしまいがちな漫才やコントの大会に比べると、女性芸人のネタには多様性があり、本人たちの属性やキャリアもさまざまだ。それをドキュメンタリー感覚で楽しめるというのも「THE W」の魅力である。

「THE W」に馴染めない人の多くは、主に「M-1」との比較で物足りないと思っているのではないか。確かに「M-1」は巨大なイベントである。大会そのものがお笑い界やテレビ界の全体に大きな影響力を持っている。そこで結果を出せば、一気にスターへの階段を駆け上がることができる。

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この大会にしかない「縦の連鎖」の特権