1点を追う中日は6回、この回から桑田真澄をリリーフした2番手・入来祐作に対し、2死から福留孝介、関川浩一の連続長短打で3対3の同点。次打者はこの日桑田から2打席連続本塁打と当たっている4番・ゴメス。ここで巨人・鹿取義隆投手コーチがマウンドに行き、入来を激励したあと、ベンチに引き揚げようと三塁線をまたいだ。ところが、直後、何としたことか、長嶋監督が南真一郎への交代を告げてしまう。

 公認野球規則8.06により、この交代は認められない。中日・星野仙一監督が激しく抗議し、審判団も交代無効を宣告。入来はゴメスの打席が終わるまで続投することになった。鹿取コーチは「ベンチの監督の手の動きを続投と勘違いして戻ってしまった」とバツが悪そうだったが、自らのミスであることにして、長嶋監督をかばったのではないかという憶測も一部で流れた。

 このドタバタ劇で平常心を失ったのか、入来はゴメスにも安打を許し、2死一、三塁とピンチを広げてしまう。だが、ここで仕切り直しのマウンドに上がった南が、立浪和義をカウント1−2から143キロ直球で空振り三振に打ち取り、見事ピンチを切り抜けた。

「1度目の出場がダメと言われたあと、もう一度ブルペンでつくり直した。あとは気持ちで負けないようにした」という南の踏ん張りで再び流れを引き寄せた巨人は、直後の7回に高橋由伸の二塁打などで2点を勝ち越し、5対3の勝利。

 試合後、長嶋監督は「それにしても、立浪を三振に取った南がポイント。継投? 諸事情があって、ワンタイムずれました。エヘヘ」と結果オーライに照れくさそうだった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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