■「説教には慣れていますから」娘の本音

 後日、どうにか野々花さんにも来てもらうことができました。

「こんなところ、来させられちゃって、大変だねぇ」

と、野々花さんにいうと

「別に」

と言います。きたな、と思いつつ

「だって、こんなところに来させられて、カウンセラーに説教されるのって嫌なのが普通だと思いますよ」

と続けると

「慣れてますから」

だそうです。やはりそうでした。野々花さんから見えるのは、説教されたり、嫌なことを押し付けられるという世界です。だからシャッターを閉めているわけです。

「慣れていても、嫌なものは嫌でしょ」

と私が言ったあたりから、少しずつ、気持ちが緩んできたように思えました。最初は母親に送り込まれたカウンセリングルームなので警戒していたのでしょう。

「お姉ちゃんは、本当は悪いこと結構してたのに表向きはいい子を演じて、うまいこと地方の大学に入って逃げ出して……。今は、お母さんの風当たりはみんな私……」

 学校の話は一切せず、野々花さんが家族や自分をどう思っているかという話を小1時間、聞きました。

 断片的な話をまとめると、父親も、娘たちが小さいころは早く家に帰る子煩悩な父親だったそうです。そして母親の徹子さんが長女の中学受験に向けて忙しくなった頃から、父親は「仕事が忙しく」なり、長女が家を出たころには野々花さんは学校へ行きにくくなったそうです。

 つまり、最初は父親が帰宅拒否になって家族というシステムから抜け出し、姉には非行という「症状」が出ていた(けれど親は気が付かなかった)。その姉が進学で抜けたせいで、今度は野々花さんに濁流が押し寄せ、「症状」が出現したわけです。つまり、野々花さんの不登校は家族のダイナミックスを無視しては語れないものなのです。

 野々花さんが困っている、という意味では野々花さんは問題を抱えていますが、野々花さんが自身が問題だとは言えません。では、徹子さんが悪いのか、といえばそうとも言えません。

次のページ
うまく機能していないのは? 父だけじゃなかった