このように蓄積した睡眠不足は、どこかで解消する必要があります。そこで休日には朝遅くまで寝ているようになるのですが、そうすると、今度はさらに早寝ができなくなります。体内時計はどんどん夜型にずれていき、体にとってまだ「夜」のタイミングで起床時間になってしまい、時差ボケのようなぼーっとした状態で登校することになります。このような状態は、社会的時差ボケとも呼ばれています。

 こうした体内時計の乱れは、健康にも問題を引き起こします。今回ご紹介した論文では肥満の増加が指摘されていましたが、これは体内時計の乱れにより、ホルモンの分泌や血糖値の調整が乱れることが主な原因と考えられています。

 体内時計にはもともと個人差があり、朝型の人もいれば、夜型の人もいます。さらに、実は年齢や性別による差もあります。赤ちゃんや高齢者は朝型ですが、思春期の若者はちょうど夜型になりやすい年代です。ちなみに、10代後半以降は、男性の方が女性より夜型になる傾向があります。女性の方が夜型の生活に「弱い」傾向があり、悪影響を受けやすいのかもしれません。

 なぜこのような差が起こるのかは、はっきりしていません。特に年齢差については、身体的成長・変化だけでなく、例えば若者であれば、学業や交友関係など、社会的な面が影響している可能性もあります。いずれにしろ、夜型になりやすい年齢にあたる中高生は、意識して、朝型の生活に整えていく必要がありそうです。

 いきなり早寝をするのは難しいので、まずは休日も平日と同じ時間に早起きすることからはじめると良いでしょう。昼夜逆転など日常生活に問題が出てきていたり、ご家庭で努力してみても効果が見られなったりする場合など、専門の医療機関で相談する手もあります。少しずつ、良いリズムで十分な量の睡眠をとれるようにしていきたいですね。

(※)Cespedes Feliciano EM, Rifas-Shiman SL, Quante M, Redline S, Oken E, Taveras EM. Chronotype, Social Jet Lag, and Cardiometabolic Risk Factors in Early Adolescence. JAMA Pediatr. 2019.

○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表。

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森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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