そのカツラの毛 誰の髪か知っていますか? <下川裕治の旅をせんとや生まれけむ>
連載「旅をせんとや生まれけむ」
「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第8回は「バングラデシュで目にした髪の毛」について。
【髪の毛の塊が積まれた部屋はこちら…】
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今年(2018年)の2月、バングラデシュを訪ねた。南部のコックスバザールからさらに南にくだり、ミャンマー国境のチョドリパラという村に滞在した。その滞在記は、『12万円で世界を歩くリターンズ』(朝日文庫)に収録されている。
その村で懐かしい人に会った。彼は以前、コックスバザールで、髪の毛の輸出の仕事をしていた。コックスバザールで集められた髪の毛は、ミャンマーに渡り、そこから中国に送られるという話だった。しかし、久々に会った彼はこう告げた。
「ストップです。ミャンマーからロヒンギャ難民がバングラデシュにやってきて、国境の管理が急に厳しくなって……」そもそも髪の毛の輸出って? はじめて聞いたときも戸惑ったのだが、ようはカツラビジネスである。
世界で売られているカツラにはいろいろな種類があるが、できるだけカツラだとわからないために、人の毛を使っているメーカーがある。カツラに加工しやすい毛は、できるだけ長く、パーマなどで痛んでいないほどいい。そのメーカーは、質のいい髪の毛を求めてさまざまなエリアに供給ポイントをつくっている。そのひとつがコックスバザールだった。

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