ところが、前述のようにワインを飲む時にタバコを吸うと確実にワインはまずくなる。だから、ワインラバーたちは喫煙しない人が多いんじゃないかとぼくは思う。

 その証拠に、日本では飲み屋の多くが喫煙OKだが、ぼくが知っているワインバーのほとんどが禁煙だ。これが、他の酒類に比べてワインが健康に良いひとつの説明なのではないだろうか。説明のすべてではないにしても。

■アルコールの中でも、ワインは痛風のリスクも若干低い

 さて、前述のようにアルコール摂取がリスクと言われる黄斑変性症だが、ワイン、あるいはワインと他のお酒を組み合わせて飲むとむしろ発症が抑えられるのでは?という疫学研究もある(Obisesan TO et al. J Am Geriatr Soc. 1998 Jan;46(1):1–7)。

 これもわれわれの通俗的な常識の真逆を行く結果で興味深い。痛風発作はアルコールで惹起される。しかし、ここでもワインは若干リスクが低いようだ。一番尿酸値を高めやすいのはビールだが、ワインは少量の飲む分には尿酸を高めなかったという研究がある(Choi HK et al. Arthritis Rheum. 2004 Dec 15;51(6):1023–9)。

 赤ワインには問題もある。赤ワインや熟成したチーズにはチラミンという物質が含まれている。これは芳香族のアミン(アンモニアNH3の水素が別のものに置換されたもの)だ。

 チラミンはパーキンソン病やうつ病の治療に使われることがある。こういった患者さんでは赤ワインやチーズを食べすぎると、治療効果に影響が出てくることがあるので注意が必要だ。通常は止めたほうがよい。

 あと、片頭痛のある人はチラミンで頭痛がひどくなる人がいる。そういう人も赤ワインは避けておいたほうがよい。

 ワインにはワイン特有の健康上の利益があるかもしれない。「ただの」アルコール飲料では得られない利益が。しかし、ワイン特有の健康の害も指摘されている。ここでも、両論併記で科学的に議論することが大切だ。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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