昨今、教員は長時間労働やモンスターペアレントに悩ませられるブラックな仕事というイメージがある。中でも生徒の学力により仕事内容が大きく変わる高校、とくに「教育困難校」での勤務は多忙を極める。教育ジャーナリストの朝比奈なを氏は、朝日新書『ルポ 教育困難校』で、教員同士の人間関係が、教師の負担にさらに追い打ちをかけると言う。同書より内容の一部を紹介する。

■「進学校」勤務だから能力が高いわけではないのに…
 教員も高校生と同様に自分が所属する高校の学力レベルに自己肯定感が左右される傾向がある。知名度の高い「進学校」に勤務している教員は、何の迷いもなく勤務校の名前を口にする。学校関係者以外の間には、「進学校」には能力の高い教員が配置されるという思い込みや幻想も存在するようだ。

 もちろん、部活動の指導や校務に関する能力が高く評価されている教員が配置される例もあるが、ほとんどの教員は一般的な教員人事のルールに従って赴任する。それなのに、そこに赴任した教員が何となく誇らしげになるのは人間の性なのだろうか。

 一方で、「教育困難校」教員には自身の勤務校を隠したがる人も多い。勤務校の混沌とした状況の中で、教員としての無力さを感じて自己肯定感が低くなってしまったからなのか、勤務先を聞いた相手から同情されるのがいやなのか、その理由はわからないが。生徒に愛校心を求めながら自身は全くそれを持たず、少しでも早く他校へ異動できるように望んでいる教員が数多く存在する。このような教員は自分が関係するトラブルを少なくするため、事なかれ主義、先例主義で身を縮めるように日々を過ごしている。

■教員集団の中の「スケープゴート」
 多くの面で困難を抱え、大人や学校を信じず荒れた言動をする生徒に対しては、教員が協力し合い、一枚岩になって指導するのが最善の方法だ。既に述べたように、「教育困難校」では指導の場面に複数の教員がかかわることは多いので、その体制ができているかのように思うかもしれない。だが実は、教員集団は一枚岩になかなかなり切れていない。

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