■多重人格や人間の深層心理を描いたものも人気

 その「SMOKE」を書いた韓国の女性劇作家/演出家は常にどんな作品にも今を生きる女性の姿、女性が大切にするもの、目指すもの、情熱的だったり勢いがあったり、たおやかだったりする姿を作品に登場する女性に託して描いていて、後藤さんは「共感できるところがたくさんあり、彼女の作品を日本でもさらに上演し続けたい」と語る。最近、韓国の女性作家チョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でもベストセラーになっているが、韓ミュの世界にもそうした作家がいるというのが興味深い。ミュージカルというと、明るくハッピー、ラララ~♪と歌い、浮世離れしたものと勝手なイメージを抱いてしまいがちだが、そうではないようだ。

「韓国ミュージカルでは『フランケンシュタイン』とか『ジャック・ザ・リッパー』とか、多重人格や人間の深層心理を描いたものも人気です。リアルな物語が好まれる、というのはありますね。ただ、そうした表現を言葉だけに頼りません。そこに生きている人間の心情の流れ、説明できない衝動や情熱、葛藤、そういった心のひだ部分を俳優に託して描くということもします。語り過ぎないんです。私は民族性という言葉をあまり使いたくありませんが、韓国の人たちはアジアの中のイタリア人と言われるほど情熱的で感情をさらけ出すように思います。時には争いになりそうなほど、感情をぶつけ合う。そういった感情や情熱を音に乗せて表すのは、見ていて気持ちがいいなと思います」

 ミュージカルだからストーリーだけでなく、音楽こそが主役となるが、「韓国では多分にロマンチックでノスタルジックな気分を誘う音楽が好まれますから、そういう部分がうまく作用していると思います」という。また、何より歌が上手い人が多い!

「ハングルには母音が多くて骨格が違うとか言われますが、声帯の強い人が多いんです。すごいところまで音が出る人も多くて、どんな難曲も歌いこなしてしまう。となればソングライターもどんどん面白い曲を書く! 『ジキル&ハイド』というミュージカルが大ヒットしていますが、劇中歌の“時が来た/ディス・イズ・ザ・モーメント”という曲は結婚式の定番になっていたり、TVのバラエティ番組でも度々使われていたり、国民的人気曲になっていますね」

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24役を一人が演じる