■時には声を上げよう、お天道様は見ていない

田村:日本では、自分ルールを押しつけられることがあります。そんなとき、吹原さんは、どう対応していますか。

吹原:仕事上のケースなら、ある程度は許容しています。この連載でも何度か言っていますが、僕は仕事のパフォーマンスにもっとも価値を置いているんです。だから、ルールを押しつけることで相手が気持ちよく作業にあたってくれるのなら、むしろ歓迎です。

田村:私もそうでした。でも、最近はルールを押しつけられる前に、声を上げようとしています。

吹原:それはなぜですか。

田村:自分ルールとは少し異なるのですが、シンガポールで仕事をするようになってから、仕事を進めるなかで、私にとって不利な条件を理不尽に取り決められることたありました。そのとき、私は「誰かが、この不条理を見とがめてくれるだろう」と考えたんです。ところが、仕事仲間に「耕太郎は、もっと主張しなければいけない。スピークアップしないと、君の意見や功績は無になる」と忠告されてハッとしました。

吹原:なるほど。

田村:もし、日本にいたら、その場では言わずに、後から根回しをして音便に対処をする道を選ぶと思います。なぜなら、意見の対立が個人的な好き嫌いの感情に結びつくことが多いからです。

吹原:よくないことだとは思いますが、とてもわかります。

田村:その場で声を上げるか、その場では受け流して、後から工作する。そのあたりは、ケースバイケースに判断する必要がありますが、声を上げる重要性を覚えておくことは損ではありません。

■相手に何かを伝えるコツは好奇心をくすぐること

吹原:自分ルールを押しつけられるのは、立場的に弱い時が多いですよね。

田村:そういえば、選挙戦にまつわるエピソードを思い出しました。ある人が選挙区にある地域の会合に出席した際、盃の回し飲みを提案されたそうです。受け取って、中を覗いてみると、何か不思議な物体が浮いていたそうで……。

吹原:それはイヤですね!

田村:結局、その人は呑んだ振りをしたり、わざとこぼしたりして切り抜けたそうです(笑)。それを聞いて、受け入れたフリを受け流すのも一つの手だなと感じました。

吹原:断ったら、激昂されるパターンですもんね。損して得とれではないですが、完全拒否ではなく、うまくかわす方法を模索したいものです。
僕は、自分に自己暗示をかけることをよくします。相手の言うことを聞いたら絶対に楽しいはずと言い聞かせるんです(笑)。そうすると、不思議と気が楽になります。

田村:それはありますね。かつての私は、飲み会をあまり好きではありませんでした。ところが、シンガポールに移り住んでその機会が減ると、逆に好奇心から、飲み会に参加するのが苦ではなくなりましたから。

吹原:その考えでいくと、自分ルールを押しつけて相手に敬遠される人は、伝え方が下手なんでしょうね。自分のフィールドに強引に引っ張るのではなく、楽しさをプレゼンして相手に興味を持ってもらえるようにすればいいのにと思います。

田村:おっしゃるとおり。相手のルールを受け入れたら、自分に何か得があるかも。そう思わせる伝え方というのは非常に大事ですね。