しかし、DV加害者の本性が表れるのは結婚後、または妊娠・出産のタイミングだ。A男さんの場合は“自分のモノになった”と実感した瞬間から、冒頭の考えを強くしたという。実際に、家庭のことで何か問題があっても、A男さんの言う通りにしておけば、面倒なことにはならなくて済んだとB子さんは言う。

「私の意見を押し通してうまくいかなかったときに、何時間もそのことについてなじられることが何回もあって、あー、私って本当にダメな人間だな。全部彼の言う通りにしていた方がいいなと思うようになっていきました」(B子さん)

 A男さんのような考えを持っている人を加害者更生教育プログラムでは“正しい病”と呼ぶ。それはもちろん医学的な病名のことではない。

「自分こそが正しい。妻は何も知らないし、いつも間違っている」という、強い思い込みだ。この“正しい病”は子どもにも向けられていき、「しつけ」と言っては手を上げた。

 悩んだ末、意を決してB子さんが離婚を切り出したことをきっかけに、加害者更生プログラムに参加することになったA男さんは、事前の面談で口をとがらせ私にこう言った。

「家族は一心同体。僕の考えに従わないのなら、叩いてでも従わせるのが世帯主である僕の責任じゃあないですか!」

 加害者プログラムに通う別の男性、C男さん(40代)もこう言う。

「子どもは自分がコントロールできるからかわいいと思えるんであって、生意気なことを言ったり反抗したりした時点でがっちり(力で)抑え込んでやらなければ許せないし、この子のためにならないという義務感がありました」

 C男さんは、小さいころから父親である自分に懐かず、言うことを聞かない長男を疎ましく思い、何かにつけて暴力を振るった。一方で、自分を慕う様子を見せる要領のいい次男をえこひいきしてみせた。C男さんは妻に「長男の育て方が間違っている」と言っては、子どもの前であろうとかまわずに妻を殴った。ある日、C男さんがまた暴れ始めたときに、小学生だった長男が110番通報したことで、C男さんは逮捕され、妻が被害届を出さないことを条件に加害者更生プログラムに参加し始めた。

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「妻が自分の権威を貶めていると思い込んでいた」