「妻が、父親としての権威を貶めていると思い込み、この家で一番偉いのは自分だということを示すために暴力をふるっていました」

と、加害者プログラムに参加してしばらくたってから口にするようになった。4年間プログラムに参加したC男さんは妻だけでなく、長男と次男にも説明責任を果たし、本当にひどいことをしていたと、心からの謝罪を行い、妻と子どもたちの許可を得てプログラムを卒業した。今は家族4人で同居を再開。D子さんと私は何かあればすぐに連絡をするという約束をしているが、D子さんもDV被害女性プログラムに参加してDVを見抜く力をつけたので、今は何か問題があっても二人で解決できているようだ。

 DV加害者はゆがんだ夫婦観や家族観を持っている。家族をコントロールする権利が自分にはあると固く信じているのだ。それは、自分が家族を養っているからとか、自分が世帯主だからとか、さまざまな特権意識を持っている。これらの特権意識が、家庭の中での暴力を正当化する根拠となる。背景には加害者自身の不安や自信のなさ、妻への対抗心などがあるのだが、これらの自分自身の弱みを打ち消すために相手を貶め、自分の特権意識を発動することでDVや虐待を正当化させる。DV加害者がこれらの価値観の歪みに気づき、態度・行動を変える訓練をするのがDV加害者更生プログラムだ。

 A男さんとC男さんが参加するのは、私が担当する「アウェア」で、1回2時間のグループに52回以上参加することが参加の条件となっている。卒業は妻が認めた場合のみ。グループ参加には事前の個人面談3回と、パートナー面談1回が必要で、プログラムの参加費は1回3千円。有料で期間も長いこのプログラムに自主的に参加する加害者はほとんどいない。彼らは、妻からの“離婚(別居)かプログラム参加の二択という妻命令”をつきつけられることが参加動機になっている。妻が命令をつきつけるには大きな覚悟と決断が必要だ。

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海外ではプログラムを法制化 DV受けても離婚しない日本