内容を非常にざっくり、私なりにまとめると、

(1)母語の癖はそう簡単には抜けない
(2)母語で習得したパターンをそのまま使えるかどうかがその外国語の習得の容易さにかかわっている
(3)母語で習得したのとは違うパターンを身に着けられるかが外国語学習の肝だ

ということが、「転移」という概念で説明されています。

 ドイツ語を母語にする人にとって、英語を学ぶのはそれほど難しくないのは転移がポジティブに働くケースが多いからで、同じ人が日本語を学ぶハードルが高いのは転移がネガティブに働く場面が多い。要するにいったん身に付けたパターンはとても強力で、第2言語を使おうとするときも、頭は完全には切り替わらず、良くも悪くも母語の意識の使い方が期せずして顔を出してしまいます。それが言語習得における「転移」だという話です。

 この本にもいくつか例が載っていましたが、私は自分の英会話を振り返って、なるほどと思いました。日本語では、平叙文にするか疑問文にするかは語尾で決まりますから、話し始めるときには、どちらにするかを意識する必要性はほとんど無く、話しながら決めることができます。一方、英語では言い始めから異なりますから、最初の一語を言う前に「疑問文を話そう」と意識する必要があります。しかし、日本語に慣れきっている私は、話始めてから気が付いて、語尾を上げて無理やり疑問文のニュアンスを出すことが少なくありません。意識の上では英単語を使って、おおむね正しい英文法を使えるのに、話始める前に疑問文であることを意識するという一点で、無意識に日本語の癖が出てしまうのです。その本でいうマイナスの「転移」の一つの例です。

 私の例で分かるように、言葉を習うことと"意識"の使い方はくっついていて、子どものころに言葉を習う相手、ほとんどの場合は親とのやりとりで学んで身につけるものです。そして母語の習得に失敗する子どもがほとんどいないわけですから、この意識の使い方も確実に身についているのです。

次のページ
相手の言語で反射的に対応 至難の業