「首都圏のトップ進学校から毎年10人ぐらい入学していますが、毎年のように留年する学生がいます。中高時代に部活に入らず塾通いをしていて、1次試験の成績はよかったのですが、大学でも部活にも入らず、孤立して留年するケースがあります」

 臨床実習に出る前には、共用試験に合格しなくてはならない。さらに、近年、医師国家試験も難しくなっている。医学部合格は医学を学ぶ権利を得たということであり、スタート地点に過ぎない。医学部に入ってからも学び続け、医師になってからも日進月歩の医学に対応するため、勉強が欠かせない。いわば一生学び続ける仕事なのだ。

 加えて、コミュニケーション能力も必要不可欠である。だからこそ、医師としての資質、医師になること、医学を学ぶことに対するモチベーションの高さなどを見極めるために、年々、面接重視の動きが強まっている。全国82の医学部のなかで面接がないのは、九州大だけだ。

■避けられる多浪生 優遇される地元出身者

 女子や多浪生が不利になりやすい一方で、医学部入試では地元出身者が優遇されるという問題もある。地域医療を担う医師不足を解消するために、1997年度から「地域枠入試」が始まった。卒業後に、修学年数の1.5倍の期間(6年間で卒業すれば9年間)地域医療に従事すると修学資金の返還を免除するという入試だ。

 地方の国立大学で面接官をしていた医師が、こっそりと打ち明ける。

「成績順に合格させていたら、ほとんどが首都圏や関西圏の中高一貫校の出身者になります。彼らは卒業したら、首都圏や関西圏に戻ってしまうケースがほとんどです。そうなると地域医療に従事する医師がいなくなります。このため、地元の進学校の生徒には、面接で加点していました」

 地域枠入試で入学した学生が、卒業後に地域医療に従事しない場合には、修学資金に利息をつけて返済しないといけないが、この制度を悪用する受験生や保護者もいる。

「一般入試よりも合格しやすいから、地域枠入試を受けさせただけです。最初から卒業後には戻ってくる予定です。学費を先に払うか、後で利息をつけてまとめて払うか、ですね」

 そう言い放つ保護者もいるという。

 厚生労働省が、地域枠入試で入学した学生のその後について調査したところ、地元出身者の方が地域医療に従事する割合が高かった。このため、地域枠入試の受験資格を「全国」から「地元出身者限定」に変更する大学も増えている。

 昨年11月には神戸大が、兵庫県内に在住・在学する受験生を対象にした18年2月の医学部推薦入試「地域枠入試」で、医師や医療機関が少ない地域の出身者に加点していたことを明らかにした。女性医師の仕事と育児の両立、診療科の偏在、多浪生の留年率の高さ、医師の偏在による地域格差など、医療・医学界が抱える問題は多い。それらの問題の改善を望みたい。

(文/庄村敦子)