試行錯誤の末、独自の技術で生のワカメをペースト状にすりつぶすことに成功。ワカメの水分のみで小麦粉や塩を練り上げ、独特な香りを残した。さらに完成度を高めるため、毎週のように、従業員らと本場・香川県などでうどんを食べ歩き、どんどん改良していった。そうして2012年に完成したのが、色鮮やかで絶妙な食感、ゆでてから時間が経っても伸びない「わかめ麺」だ。

 海藻を原料にした麺は多々あるが、見た目の美しさやワカメの食感を生かしたツルツル、もちもちの麺は評価され、百貨店などで販売してもらえるように。飲食店などの要望に応えて、色や風味はそのままに、7~9分かかるゆで時間を2分ほどに短縮した業務用の麺も開発した。

 各地の展示会や見本市に出展して販路を拡大し、現在は、常温保存できる乾麺も含め年間約25万食を販売している。井上さんは「もっと受け入れられると思っている」と意欲を燃やす。

 井上さんもまた、麺の研究を進める一方で、食品関連の産業機械やロボットの開発にも精力的に取り組むアイデアマンだ。その中には、実用化し、大手に納めた製品もある。チキンラーメンに阻まれて苦節60年、親子3代の思いがつまったわかめ麺、ぜひご賞味あれ。(ライター・南文枝)