-八重樫さんが実際にご覧になってきた中で、この選手はベテランになってもずっと凄かったという選手は誰が思い浮かびますか?

「大杉(勝男)さんじゃないですかね。ベテランで実績があっても、とにかく練習で手を抜くことがない。道具に対してもこだわりが強くて大事にする。今はよくバットをジュラルミンのケースに入れたりしますよね。当時はそういうのはなかったですが、大杉さんは試合で使うバットを絶対にクラブハウスに置きっぱなしにせず、車のトランクに乾燥剤と一緒に入れていました。神経質なところがあって、宿舎で同じ部屋だったときは夜中にいきなりバットを振りだしてびっくりしたこともありましたけど、それだけ野球のことを常に考えていたのだと思います」

-コーチ時代にベテラン選手やそろそろ戦力外という選手に対して接する時に心がけていたようなことはありますか?

「ある程度実績のある選手にはそこまで言いませんが、結果を残せずに辞めていく選手に対しては、技術的なことを細かく言うようにしていましたね。他で選手を続けるにせよ、引退するにせよ、次のステップのことを考えてそうしていました。みんなアマチュア時代はスターとして活躍してきたのに、プロで何も身につかなかったというのは避けたいじゃないですか。だから、地元に帰って指導者になった時にもしっかり教えられるようにということは考えていましたね」

-最後に最近選手を引退してすぐ監督というケースがありますが、そのことについて八重樫さんはどう思われますか?

「あれはどうなんでしょうか。去年まで選手だったのにいきなり監督と言われても他の選手もやりにくいですよ。もし、そうするなら指導者として実績のある人をしっかりコーチとしてつけるべきですが、それでも監督の立場ではやりづらいと思いますね。しっかりステップを踏んで監督になることが理想だと思います」

 実績がないままプロを去る選手に対してこそ、より細かく技術的な指導をするというのは意外な話だった。現在プロ野球出身のアマチュアの指導者も増えているが、そういう指導者を目指す選手にとっては極めてありがたい話ではないだろうか。また、環境が変わった時にそれまでの考え方を変えられるかということも非常に分かりやすい話だった。このオフに移籍したベテラン選手が来シーズンどれだけ復活することができるのか。それまでのプレースタイルと比較しながら見ると、より深く野球を楽しむことができるだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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