25歳の山中はもともと“超攻撃的な左サイドバック”として鳴らしていたが、今季はボールを動かして主導権を取るポステコグルー監督のもとで“偽サイドバック”のポジショニングを身につけ、アウトサイドからもインサイドからも仕掛けて直接チャンスに絡める打開力はA代表でも魅力だ。左足のシュート決定力は日本人随一だろう。リオ五輪を目指す代表で長く主力を担いながら怪我の影響もあり、最後に外れた苦い経験は“日の丸”の並々ならぬモチベーションに繋がっている。

 不安視されるのは守備面で、横浜FMのモンバエルツ前監督も山中がA代表の資質を十分に持つことを認めながらも、“ハリルジャパン”で代表に縁がなかった理由の可能性に守備のバランスをあげていた。ただし、ディフェンスの基礎能力が低いわけではなく、代表なりの攻守のバランスワークを意識して取り組めれば引き出しを増やすきかっけにもなりうる。

 22歳の松原は182cmの恵まれたサイズに加えて上下動ができ、4-4-2のゾーンをベースとする清水において、柔軟なスライドから体をはったディフェンスもできる。もともと攻撃的なポジションの選手であり、いざ攻め上がってからクロスに持ち込む能力も高い。インサイドでの決め手は杉岡や山中ほど無いが、アウトサイドで攻守にわたるハードワークと局面の強さを発揮できる選手だ。

 メンタルの強さも清水では定評があり、ピンチを救う体を張ったディフェンスに加え、劣勢時ほど機を見たオーバーラップで起死回生のチャンスを呼び込むこともある。サイドバックでありながらセットプレーの空中戦で“高さ”を発揮できることも強みだ。U-17、U-18での代表経験はあるが、杉岡や山中より“日の丸”に縁のないキャリアを歩んできている。このタイミングで森保ジャパンに選出されればサプライズではあるが、能力的にはいつ呼ばれてもおかしくない選手で、その意味では今回が好機とも言える。

 誰が選ばれても長友の経験値を補えるわけではない。杉岡か山中、あるいは松原の誰かがメンバーに名を連ねることが予想できるが、直近のアジアカップを見据えて経験が豊富な山本脩斗(鹿島アントラーズ)などが浮上してきてもおかしくない。若手にチャンスを与える意味では長友の不在をある種の“好機”と捉えることもできるが、森保監督の決断に注目だ。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)、『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の“天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行。