野球のデータサイト「DELTAGRAPHS」によると、今季のレギュラーシーズンで700イニング以上を守った捕手で、二塁への全送球をタイム順に並べた際の「中央値」が「1.83秒」(9月27日まで)で12球団トップ。2位のロッテ・田村龍弘が「1.92秒」、広島・會澤翼は「1.99秒」だから、その差は顕著だ。

 甲斐は4月25日の西武戦で「1.74秒」。さらに同4日の西武戦、11日の日本ハム戦では「1.77秒」をマーク。同サイトによると、2016年以降でのNPB最高のタイムは、甲斐の「1.67秒」。この「強肩」という武器は盗塁を刺すだけではなく、相手の盗塁への意欲を削ぎ、警戒心を高めさせる効果も絶大だ。つまり“事前阻止”させるだけの力を秘めているのだ。

 ここで昨年のデータを紹介してみよう。「盗塁刺」を「盗塁企図数」で割ったものが「盗塁阻止率」だ。

 甲斐 102試合(出場試合数) 34(企図) 11(盗塁刺)
 田村(ロッテ) 130試合 83 28
 炭谷(西武) 104試合 49 16
 嶋(楽天) 112試合 90 26

 この数字から導き出される結論は、こうなる。甲斐が捕手だと、相手は走れない--。

「セ・リーグには、なかなかいないタイプなんです。巨人の小林(誠司)も肩は強いんですけど、彼の場合は地肩の強さ。でも甲斐は捕ってからが速い。投手も、1球ごとに間を取ったりして、工夫もしていますね」と前述の広島・玉木内野守備走塁コーチはそう分析した上で断言した。

「でも、ウチは走りますよ」

 1回の場面に戻ろう。田中の四球の後、2番・菊池涼介は3球三振。その3球目、ソフトバンクの先発アリエル・ミランダが投球モーションを起こしてから、甲斐のミットに収まるまでのタイムは「1.31秒」だった。左投手で、一塁走者に正対する形でセットポジションに入るため、スタートは切りにくいとはいっても、決して速くはない。二盗のチャンスはある。

 続いて3番・丸佳浩の打席を迎えた。今シリーズ2試合でヒット1本のみと不振の色が見える丸とはいえ、ここで二盗を許して、得点圏に走者を背負っての対戦となると、苦しい場面になる。初球、空振りでストライクを取ったあと、まずけん制を1球。続いてはボールで、カウントは1ボール1ストライク。ここで2球続けてけん制。ソフトバンク側の警戒ぶりはマックスだ。

 そこから、フルカウントに持ち込んだ。田中の足、丸のバットコントロールを考えれば、当然ながら「走れ」のサインだ。ゴロを打てば、最悪でも2死二塁で、4番・鈴木誠也の打席につなげられる。

 田中がスタートを切った。丸は空振り三振。甲斐が捕る、投げる。ベースカバーの今宮健太のグラブにその送球が収まったとき、スライディングに入っていた田中の右足はまだベースの手前にあったのが明らかに見て取れた。また、アウトだ。

次のページ
甲斐の肩がシリーズの行方に影響を