二塁到達「3.43秒」は田中の足を考えれば、決して速いタイムではない。ミランダのクイック、甲斐の肩、3-2のカウント。そうした状況がわずかにスタートを遅らせたこともあるだろう。

 一方、ミランダのモーション開始から今宮のグラブに送球が収まるまでのタイムは「3.19秒」。0.24秒の差はタッチアウトに仕留めるためには、十分すぎる“間”だ。

 甲斐は27日の第1戦では、同点の9回2死一塁から広島の代走・上本崇司の二盗を、第2戦の5回にも鈴木誠也の二盗を刺している。これで、3試合で3度、阻止率100%の甲斐に対して、2回以降、広島が盗塁を仕掛けるシーンはなかった。

「明日も、明後日もあります。どうなるか分からない。ただ、自分の出せるものは出したい。最終的には、ホームベースを踏ませなければいいですから」

 機動力という広島の特色を、甲斐の肩が完全に“消している”。さらに第3戦では、丸に対してシリーズタイ記録となる1試合4三振も奪った。全23球中、空振り9。4番・鈴木に2本塁打を許したが、丸を封じることで打線の分断に成功しているため、その傷を“最小限”にも抑えている。

「深くは言えません」

 戦いの真っただ中。甲斐の口は重い。それも当然だ。決戦の真っただ中で手の内を明かすわけにも、ちょっとしたヒントも相手に与えるわけにはいかない。ただ、何とも“抽象的な表現”だったが、甲斐の戦略の一端は垣間見えた。

「何があるか分からない。とにかく先頭打者、初球、1アウト。その“始まり”を大事にしたいです」

 まず止める。まず封じる。まず打ち取る。“先に制する”ことで、広島が少しでもひるんでくれれば、こちらが有利になるという意味合いだろう。1勝1敗1分けと、どちらも譲らない、がっぷり四つの様相を呈してきた日本シリーズ。甲斐の「肩」と「インサイドワーク」が、今後のシリーズの行方を大きく左右してくるのかもしれない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。