何とも哲学的な回答が、グラシアルの人間性を色濃く表している。キューバ代表として、2017年の第4回WBCに出場。2次ラウンドの日本戦では巨人・菅野智之から本塁打も放った。今年2月の宮崎キャンプ中にソフトバンクに入団したが、本職はサード。レギュラーの松田宣浩の存在に加え、1軍の外国人枠は「4」。シーズン当初は、主砲で同じキューバ人のアルフレド・デスパイネ、先発ローテを担うリック・バンデンハーク、リリーバーの左腕リバン・モイネロ、ストッパーのデニス・サファテと充実の戦力がそろっており、グラシアルは開幕1軍メンバーからも外れ、あくまでスペア的存在だった。

 しかも、サファテの故障離脱に伴い、4月19日に1軍初昇格を果たしたものの、5月24日の西武戦(ヤフオクドーム)の試合中に左手薬指を骨折。2軍でのリハビリと再調整はおよそ2カ月半にわたって続いていた。ところがその間、ファームでは、グラシアルの“真面目ストーリー”が続々と生まれていた。

「ホントにいい性格だよ。練習も、いつも真剣に取り組んでいるからね」

 グラシアルの「野球に対する姿勢」を絶賛したのは、2軍監督の小川一夫だった。まず驚かされたのは、打撃練習に取り組む直前のことだったという。打者はまず、バントを2、3球こなした後、フルスイングでのバッティングに入るのだが、そのバントはあくまで目慣らし。バットの真ん中あたりを持ち、芯に当てる感覚をつかめば十分なのだが、グラシアルは常にバントの構えを取り、腰を落とし、打球の勢いを殺して、きっちりと転がしていたのだという。

「あんなに真剣にバントをする外国人なんて、初めて見たよ」と小川は言う。さらに、ウエート機器が完備された福岡・筑後の練習施設でも、トレーニングコーチのアドバイスに従い、熱心にトレーニングに取り組むと、たちまち来日当初のユニホームがきつくなり、ワンサイズ上のユニホームを発注せざるを得なくなった。ファームの遠征に参戦すると、炎天下の土のグラウンドでも全力疾走を欠かさなかった。

 松田宣浩の打撃不振で、サードでは今季初スタメンとなったファイナルステージ第3戦。その試合前も、顔中に汗をしたたらせ、三塁でノックを受け続けるグラシアルの姿があった。キューバ代表ではサードがレギュラーポジション。慣れていないわけではない。それでも、他の外国人選手には見られないほど、真剣な練習ぶりを見せていた。

「信頼を得ることができて、今、こうやってプレーをさせてもらって、とても感謝している」

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献身的なスタイルは当たり前