グラシアルにとっては、その献身的なスタイルも、さも当たり前といわんばかりだ。ステージ突破で日本シリーズ進出を決めた第5戦も、1回のセーフティーバントに続き、得点にこそつながらなかったものの、7回、9回の打席でヒットを放っての3安打。ファイナルステージの5試合では20打数10安打の打率.500、CS8試合でも30打数13安打の打率.433に「自分の仕事ができて、自分自身に満足している」とうなずいた。

 今ステージ2本塁打の柳田がMVP、23歳の若武者・上林誠知は今ステージ10打点で、これはCS1シリーズでの個人通算打点のタイ記録だ。5試合通算でのチーム44得点、63安打は、いずれもCS記録を更新。猛打で2位からのステージ突破、球団初の“下克上”を成し遂げ、2年連続での日本シリーズ進出。その喜びに浸るなか、オーナー代行の後藤芳光が試合後、実にうれしそうに語ったのはグラシアルのセーフティーバントのシーンだった。

「誰も想像しなかったでしょ? あれを自分で判断するのが、彼の凄さなんですよ」

 その賛辞は、グラシアルがすでにホークスに不可欠な存在となったことの何よりの証明でもある。来るべき日本シリーズは、セの優勝チーム・広島との“西日本決戦”。6月15~17日の交流戦での対戦では、グラシアルは1軍にいなかった。CSファーストステージ第1戦とファイナルステージ第2戦で先発した左腕アリエル・ミランダは8月に入団、第5戦の先発を務めたアンダースロー・高橋礼はルーキー。そして2月入団のグラシアルと、2位からの日本シリーズ進出にこうした“新鮮力”の台頭があったことは決して見逃せない。この分厚い戦力こそが、ソフトバンクの強さの裏付けでもあるのだろう。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。