CSパ・第1S第2戦では好捕を披露したソフトバンク・グラシアル (c)朝日新聞社
CSパ・第1S第2戦では好捕を披露したソフトバンク・グラシアル (c)朝日新聞社

 誰もが、不意を突かれた。

 1回表無死一、二塁。打席には3番打者。この状況で「バント」の選択肢は、プロ野球の世界ともなれば、ほぼあり得ない。1、2番が連続出塁して、早くもクリーンアップにつながった。不安定な投手の立ち上がりを一気に攻め立てるチャンスでもある。3番打者に制約をかけるようなサインは、もちろん出ない。ここは「打て」。シングルヒットで先制点が入る。むしろ長打も期待できる場面だ。

 ソフトバンクの3番は、ジュリスベル・グラシアル。ファースト、ファイナルの両ステージを通し、この試合まで7試合で25打数10安打の打率.400。ファーストステージ第3戦から「3番」に座り続けている。その初球、グラシアルが“思わぬ動き”を見せた。

 西武の先発、ブライアン・ウルフの投じる143キロのストレートは、やや高めに浮いてきた。ここでグラシアルが一塁方向へセーフティーバントを敢行したのだ。マウンドを慌てて下りてきたウルフのグラブをかすめ、一塁方向へ打球が転がっていく。一塁手・山川穂高がキャッチしてベース方向を振り向くが、二塁手・浅村栄斗もウルフもベースカバーが遅れ、一塁ベースはがら空き。その間に、グラシアルは全速力で一塁を駆け抜けていた。

「ビックリしました」

 監督の工藤公康ですら、想像していないプレーだった。守備側にしても、無死一、二塁の場面では下位打線なら送りバントを警戒し、一塁手と三塁手を前進させてシフトを敷くところだろうが、この場面での内野手は当然定位置にいる。グラシアルは試合後、セーフティーバントを行った自らの判断を「守備位置を見て」のものだったと明かしている。

「ベンチは予期していない。予期していないことが起こると、さらに予期していないことが起こるんだよ」

 そう笑いながら、グラシアルの“ひらめき”を絶賛したのは、打撃コーチの立花義家だった。このセーフティーバントが決まったことで、一回からいきなり無死満塁で4番・柳田悠岐に打席が巡ってきた。こんな願ったり叶ったりのシチュエーションこそ、立花が言うところの“予期せぬこと”でもあるのだろう。

 カウント3ボール2ストライクからの6球目、146キロのツーシームを捉えた柳田の一打は、左中間を破る走者一掃の二塁打。わずか13球で3点を先制。試合の流れを一気にホークスにたぐり寄せたその最大の立役者は、鮮やか過ぎる“つなぎ”でチャンスを拡大した33歳の助っ人だった。

「野球というスポーツの特性を考えて、バントするところではバントをする。そのための準備はいつもしている」

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グラシアルの色濃い人間性