取材者は、友人を自殺で失い、取材者自身も自殺願望を抱いていた青年です。私が松本さんのツイートに対して感じていた違和感のひとつが、ここに集約されています。

■シナリオライター・虚淵玄さんに聞く

――私は友人を自殺で失いました。なぜ彼を救えなかったのか、今でもそのことをすごく悔いています。

 私の価値観から言えば後悔する必要はかけらもありません。彼を死に追いやるぐらいの苦痛に対して敬意を払ってもいいのではないかと思うからです。彼は死に追いやられるほどの苦痛にさらされていた。その事実から目を背けちゃいけないだろう、と。

 若いころはけっこう荒れた時代だったので自分のまわりでも自殺者が出ています。いろんな死生観にさらされてきました。ただ彼らが死を選んだことを「まちがいだ」とは口が裂けても言いたくないんです。

 彼の判断が傍から見れば愚かに見えたとしても、その死の意味は彼にしかわからないはずです。彼らに敬意を払うのならば、自分が害を被ったことだけに怒ればいいんです。「この野郎、おれを悲しませやがって」とかね。

 それに関しては怒ってもいいし、現に自分自身もいまだに許していません。仮に彼らをそういう苦痛に追いやるだけの原因が自分にあったとしても、それはまったく別の問題です。

――私も自殺願望にとらわれたことがあります。だからこそ死ぬのは逃げなんじゃないか、と思えてしまうんです。

 彼が背負っていたものは、あなたの想像を超えていたんでしょう。自分が想像できる苦痛がすべてではありません。その領域を超えた苦痛は、かならず存在するわけです。それを背負った人にかける言葉はありませんが、苦しんだ人に対する想像力は豊かであったほうがいいとは思います。(2011年9月1日『不登校新聞』より)

■保護者や子どもの相談窓口

「子どもの人権110番」(電話0120-007-110)

■18歳までの子どものための専用電話(相談電話)

「チャイルドライン」0120-99-7777

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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