誤解からバカにされ、失望され… 障がい者雇用の厳しい現実

働き方

2018/09/28 07:00

「ろう者のみなさんが日本語が苦手だったとしても当然なんです。その人の能力が低いからではないんです」

 鈴木さんのところに、ろう者から文章の添削をしてほしいという依頼が、つぎつぎに舞い込んでくる。なぜか。それは、職場で、こいつは使えない、と判断されたくないからだ。昇級や昇進にかかわる切実な問題である。

「聞こえるみなさんは、日本語を、文法を意識して使っていません。そんなことができるのは、なぜですか?」

 自然に身についているからだろうか……。

「そうなんです。聞こえる方は、生まれてからずっと、日本語の会話を聞いています。だから、自然に身につくんです」

 鈴木さんの説明がつづく。

 赤ちゃんが生まれてからの3年間は、言語獲得期といわれる。その3年間で、聞こえる人は、日本語の会話を、およそ1万5千時間も聞くとされている。勉強しているのではなく、自然に耳から日本語が入ってくる。それによって、日本語という言語の基礎が身につく。

 ところが、ろう者は、違う。生まれたときから聞こえないか、生まれてから3年間の言語獲得期に聴力を失ったわけだから、3年間、あわせて1万5千時間におよぶ日本語シャワーを経験できないのだ。

 職場では、文章以外にも、こんなことが起こりうる。ある会社で、聴者の女性が、こう言った。

「この資料をパソコンに入力しなくてはならないんだけど、きょうは用事があってできないの。だれか代わりに入力してくれるとうれしいんだけど」

 隣にいた聴覚障がい者は、補聴器をつければある程度、音が聞き取れた。だから、女性が何を言っているのかがわかり、そしてこう思った。

<そうか、だれかがやってくれたら、先輩はうれしいんだわ>

 翌日、その先輩から怒られた。

「あなた、なぜ入力しておいてくれなかったの!」

 何が起こったのだろうか。鈴木さんはこう解説する。

「『~してくれるとうれしいんだけど』は、丁寧な依頼の表現ですね。『~してもらえると助かる』も、同じです。でも、聞こえない方々には、それがわかりにくい。うれしいんだ、助かるんだ、という自分の気持ちを言っただけなんだ、と思ってしまうんです」

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あいまいな表現は難い

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