普通、コラボレーションは企画色が強く、リリースのときのライブで披露しておしまいというパターンが多いんです。でも安室ちゃんは本人が出演するかどうかに関わらず、その後もずっと歌い続けています。「もう一越え」って無茶をさせるけど、それで最高なものを出してくれたからにはこの曲を歌い続ける、というのが彼女の"粋"なんです。

 実際にm-floの曲も、DOUBLEの曲もかなり長い間、ツアーに組み込み続けていますね。コラボレーションで作ってもらった曲は、安室奈美恵の名義の代表曲と何ら変わらない価値を持っているんですよ。

――そういうカッコいい生き方に、ファンは夢中になってきたんですね。平賀さんにとって、安室さんの魅力とはどんな部分でしょうか。

 彼女の25年のストーリーというのは、小室哲哉プロデュース時代の大ブレイクの後、セルフ・プロデュース時代になり、7~9年は日本の音楽シーンのトップの座を譲ることになります。実は25年のうち、シングルチャートで言えば10年近くも1位ではない時間があるのです。その期間に自分を追求し、カッコいいと思うものを発信し続けます。

 正しいのかわからないことを9年間も続けるって、音楽に限らず、いろんな業界に当てはめてもなかなか無いことだと思うんです。例えば、メーカーで働いていて新商品をつくる人が売れ筋商品を封印したり、音楽ライターの僕が「こういう記事しか書きません」って言い続けたりしたら、周りは敵だらけですよ。「何やってんだ、あいつ」って言われるじゃないですか。

 みんなどこかで迎合したり妥協したり、「それも私だ」って言い聞かせて日々を生きています。それなのに、安室ちゃんのその時代のアルバムを聞き続けると、どんどん攻めていくのがわかる。まるで、世間に逆張りしているみたいに……。

 打って代わって、浜崎あゆみが女子高生のカリスマ的存在になり、日本の音楽シーンは「カラオケで歌いやすいメロディーと共感を呼ぶ歌詞」という"王道"が続いていました。それは良い悪いではなく、日本人には歌謡曲のビートが流れているから当然のことです。

次のページ
勇気を与えてきた“生き様”