自民党総裁選が7日告示された。安倍晋三総理(現総裁)と石破茂元防衛相の一騎打ちだ。野田聖子氏まで安倍総理支持を表明し、国会議員票の8割超の支持が見込まれる安倍総理に対し、石破氏が劣勢であるのは誰の目にも明らかだ。
一方、新聞やテレビの世論調査では、自民支持層では安倍氏がかなり優勢だが、全体での支持率は、安倍氏と石破氏は非常に拮抗している。自民党総裁選だから、自民党員が総裁を選ぶのは当然だが、国民世論と自民党内世論のこの明らかな差異は、自民党が国民政党ではなくなっていることを示している。
反自民層の人から見れば、安倍氏でも石破氏でも、どうせ自民党の政策を行うのだから、どちらも、支持できないという回答になりそうなものだが、実際には、石破氏への支持が非常に高い。
反安倍のリベラル層は、憲法改正、特に9条改正には絶対反対という人が多いが、石破氏は、バリバリの憲法改正論者である。リベラル層が強く反対する緊急事態条項を入れる改憲についても石破氏の方が熱心な感がある。したがって、石破氏は安倍氏に比べ、「よりタカ派」「より危険」だというのがこれまでのリベラル層の見方だった。それにもかかわらず、ここへ来て、リベラル層で石破氏を評価する声が高まっているのは矛盾しているように見える。
では、実際に、石破氏と安倍氏のどちらが危険なのか?その点を、憲法9条の改正論について具体的に見てみよう。
安倍氏は、憲法9条1項の戦争放棄と2項の戦力不保持・交戦権否認の条項を両方ともそのまま残したうえで、9条の2という条文を新設し、そこに自衛隊の保持規定を置くという案を示している。
対する石破氏は、自民党の元々の憲法改正草案にあったとおり。9条1項の戦争放棄の条項は残すが、2項の戦力不保持・交戦権否認の条項は削除して、新たに自衛隊保持規定を置くとする。
安倍氏は、自分の改憲案は、1項2項をそのまま残すから、憲法の「平和主義」は微塵も揺るがないと主張している。新設する自衛隊保持規定については、今も自衛隊は存在しているのに、憲法上は、あたかも存在してはいけないかのように見え、現に違憲論も根強いので、自衛隊員に申し訳ないから、そのような状況をなくすために設けることにしたという解説をしている。これは、かなりのまやかしである。実際に自衛隊違憲論を唱える学者は極めて少数であり、合憲論の方が圧倒的に多い。