青森大の次にリーグの覇者となったのが吉田の進学候補先と言われている八戸学院大だ。現在の校名になったのは2013年でそれまでの名称は八戸大だったが、2001年春にリーグ戦初優勝を果たすと2003年秋からは5連覇を達成するなどその優勝回数は通算14回。そしてこの頃からプロへも多くの選手を輩出している。これまで八戸学院大からドラフト指名された選手は下記の通りである。

川島亮(投手):2003年 ヤクルト 自由獲得枠
石川賢(投手):2003年 中日 3巡目
三木均(投手):2004年 巨人 自由獲得枠
青山浩二(投手):2005年 楽天 大学・社会人3巡目
内藤雄太(外野手):2005年 横浜 大学・社会人3巡目
塩見貴洋(投手):2010年 楽天 1位
秋山翔吾(外野手):2010年 西武 3位
田代将太郎(外野手):2011年 西武 5位

 川島、三木、塩見は上位指名でプロ入りを果たし、青山は楽天で長くブルペンを支える存在となっている。そして秋山は今や球界を代表する外野手へと成長を遂げた。地方のリーグでこれだけの人材を輩出している大学はそう多くはないだろう。

 そして青森大、八戸学院大を抑えて現在リーグの覇者に君臨しているのが富士大だ。2009年春に守安玲緒(現三菱重工神戸・高砂)を擁して全日本大学野球選手権で準優勝を果たすと、2014年春から2018年春までリーグ戦9連覇を達成しており、チームの躍進に伴ってプロで活躍している選手も増えている。山川穂高(西武)は現在パ・リーグの本塁打数でトップを走り、外崎修汰(西武)も昨年オフには侍ジャパンに選出された。投手でも多和田真三郎(西武)がリーグトップタイの13勝、プロ入り2年目の小野泰己(阪神)も昨年を大きく上回る7勝をマークして先発投手陣の柱となりつつある。ドラフト1位指名は多和田だけだが、プロ入り後の活躍度では前述した八戸学院大の面々を上回っていると言えるだろう。

 この選手輩出の勢いは今年も続いている。富士大のサウスポー、鈴木翔天(4年・向上)は昨年秋にリーグ戦初となる完全試合を達成。今年はひじの故障で出遅れて春のリーグ戦、6月の全日本大学野球選手権では登板を回避したが、ボールの出所の見づらいフォームから投げ込む140キロ台後半のストレートは勢い十分で、この秋次第では上位指名の可能性もある。鈴木と同じサウスポーで注目を集めているのが八戸学院大の高橋優貴(4年・東海大菅生)だ。1年春からリーグ戦のマウンドを経験しており、鋭い腕の振りから繰り出すストレートは最速150キロを超える。8月25日に行われた秋季リーグの開幕戦には高橋の登板を目当てに10球団、24人のスカウト陣が青森県営野球場にかけつけた。この日は持ち味のストレートが走らずアベレージのスピードは140キロ前後にとどまったが、本格派サウスポーは需要が高いだけに引き続きマークする球団は多いだろう。

 ほかにも、鈴木の故障の間に台頭し大学日本代表候補にも選ばれた本格派サウスポーの佐々木健(富士大4年・木造)、佐々木とともに春フル回転してMVPを受賞した村上英(富士大4年・宇都宮南)も大学球界では上位の力があり、野手も中軸を打つ佐藤龍世(富士大4年・三塁手・北海)、楠研次郎(富士大4年・外野手・東海大相模)なども注目選手だ。過去にプロ入りした選手にも言えることだが、彼らの共通点は高校時代に全国的には無名だったところ。そんな選手が切磋琢磨して、プロで活躍する実力をつけているのは称賛に値する。

 吉田ほどの実力があれば即プロ入りする方が得るものは大きいだろう。だが、たとえ八戸学院大への進学を選んだとしても、さらに成長できるリーグの環境があるということは間違いない。大学で力をつけた吉田がチームを牽引し、北東北リーグ所属のチームとして初となる全日本大学野球選手権、もしくは明治神宮野球大会で優勝を成し遂げる……そんな話も現実味を帯びてくる。果たして、吉田が選ぶ進路はプロ入りか、八戸学院大への進学だろうか。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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