従来の経済学の発想では、こうなったらお金はもう要らないはずなのです。ところがみんな、お金だけは欲しいわけですね。お金を持っていること自体がうれしい。だからモノを買うためには使わずに、貯めたり、さらに増やそうとする。それが投資ブームや不動産価格高騰につながっています。

 もともと人間はモノもお金も欲しかったが、生産力の低い時代にはモノへの欲望の方が切実で、お金への欲望は表に現れなかった。ところが生産力が拡大してモノが行き渡るようになると、お金への欲望が表に現れてきた。私はこの転換こそが成長社会と成熟社会のありようを分ける根本的な要因であると考えています。

 市場の規模は「需要」と「供給」のうち、より小さいほうで決まります。

 成長社会では供給が小さいため、生産を効率化し、人々が懸命に働いて生産高を増やすほど経済が成長し、社会が豊かになっていきます。ところが欲しいものがそろってしまった成熟社会では需要が市場の上限を決めているので、いくら働いて生産を増やしても、いくら生産効率を上げても、モノが余るだけ。経済の規模は変わりません。

 こうした認識が事実かどうか検証するために、過去に起きた大きな経済ショックの影響を見てみましょう。1995年の阪神大震災、1997年からの金融危機、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災です。

 これは実は、特徴が二つに分かれます。

 阪神大震災と東日本大震災では地震で工場が止まりサプライチェーンが寸断され、生産能力が大きな打撃を受けています。一方、金融危機とリーマンショックでは何も壊れていません。生産能力にも流通システムにも何も問題はなく、人々の実物資産も何のダメージも受けていません。ただみんなが「今お金を使うのはまずいのではないか」と感じて、モノを買わなくなってしまったというだけです。

 この両者の影響を見比べると、震災後の経済の回復スピードのほうが、金融ショックの後よりずっと早いことがわかります。

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日本の経済が成長しない理由は…