私が注目しているのは、オリンピックや国際大会の代表選出の手続きです。いわゆる一発勝負で代表が決まるのであれば、代表選出に幹部の恣意的な判断や策動は認められませんが、一発勝負で決まる競技というのは、実は少ない。そのため、代表選出の権限を持つ幹部に対し、選手やコーチは服従するしかなくなってしまうのです。

──現在問題になっている体操をはじめ、レスリングやボクシングも採点が勝敗に影響を与える競技です。このことは関わりますか。

 特に採点競技では、代表選出に権限をもつ幹部が、審判の人事権などを握って審判団に影響力を持てば、鬼に金棒です。女子レスリングの「至学館判定」、ボクシングの「奈良判定」、体操の「朝日生命判定」となってしまう。

 今年、次々に問題となった各スポーツ界の幹部は、全員が代表選出手続きに強い力を持ち、さらには審判への影響力だけでなく、人事権まで握っていたことで共通しています。

──独裁的な支配がまかり通っている協会に、共通した特徴はあるのでしょうか。

 独裁の事実を知るバロメーターとして、コーチに支払われる助成金の行方があります。本当に全額がコーチに支払われているのか。もし、選手が信頼するコーチ以外の人間がコーチ助成金を受け取っていたら、選手は自分の本当のコーチとすでに引き離されているということです。また、賞金や助成金は全額が選手やコーチに支払われなくてはなりません。そうなっていないのは、誰かの不当な力が働いているからです。すでに独裁者の魔の手が伸びていると言って間違いないでしょう。

──一部の人間によるスポーツ界の独裁的な支配を防ぐ方法はないのでしょうか。

 重要な問題は、日本のスポーツ組織には「独裁を許さない」というガバナンスが確立されていないこと。独裁に走っている幹部の存在に、周囲が気が付かないわけがありません。しかし、協会に少数意見、反対意見をくみ上げる能力がないために、一部の人間による独裁が始まってしまうのです。

 まずは、理事などの構成員が自由に意見を述べ、意思決定を行うという制度的保障は不可欠です。さらには、各協会には常時、第三者が監督者として入っておく必要があるでしょう。問題が起きてから第三者委員会を立ち上げても、後の祭りです。

(AERA dot.編集部・西岡千史)