甲子園でベンチ入りするメンバーは各校18人。これに「記録員」の存在が加わる。女子マネージャーはこの肩書でベンチに入る。ケガをしてプレーできなかったレギュラー選手がチームの士気を高めるために、記録員登録でベンチに入るケースもよく見られる。ただ、はっきりと言えば「裏方」のポジションだ。
【あの伝説のマネージャーも登場! 増刊『甲子園』の表紙を飾った美少女たち】
しかし、大阪桐蔭(北大阪)は違う。「記録員」は間違いなく“19人目の戦力”だった。白いボタンダウンのシャツにチェックのパンツ。ユニホームを身につけているわけではない。しかし、その『目』は、2度目の春夏連覇という前人未到の偉業を果たした王者には不可欠の存在だった。
記録員・小谷優宇は、ヤングリーグで投手として活躍した中学時代、144キロをマークして全国大会を制覇。硬式野球の選抜チーム「NOMOジャパン」にも選出された。しかし、身長172センチの右腕は2年時に右肘を痛めた。さらにエース・柿木蓮、投手と内野手の二刀流・根尾昂、大型左腕・横川凱と、同級生にドラフト候補の評判も高い3投手がいる。小谷が甲子園のマウンドに立てる可能性は消えた。それでも大学進学後に、再び投手としてマウンドを目指すという意志を持つ小谷は、投手としての練習をやめてはいない。そんな中、監督の西谷浩一から「記録員をやってくれないか?」と声を掛けられた。
「自分に今できること、役割はそれしかない。勝利に貢献できたら、それでいい」
夏の北大阪大会の戦いが始まると、小谷は決断した。自分の“目”を生かす――。大阪府・大東市にある専用グラウンド。チーム全体でのウォーミングアップを終えると、小谷はグラウンド脇の部屋にこもる。相手校のデータを分析に入るのだ。
試合のビデオを見て、投手の投球傾向をデータに取る。内角が多いのか、外角が多いのか。ストレートの球速、変化球の球種。どのカウントで、どういうコンビネーションでどういう攻め方をしてくるのか。それらを丹念にチェックしながら、相手投手の「像」を浮かび上がらせる。