その時だった。マウンド上の斉藤は、大阪桐蔭ベンチで選手たちがこんな声を掛け合っているのが聞こえたという。

「よっしゃ、データ通りや」

 小谷の分析通りに、斉藤が投げてくる。これならいけるぞ――。5回以降、4イニングで大阪桐蔭は8得点を奪い、主砲・藤原恭大、根尾はアベック本塁打を放った。

 8月18日の準々決勝・浦和学院戦(南埼玉)は、プロ注目の先発・渡辺勇太朗(3年)から5回までに3得点。しかし、うち2点は藤原と根尾のソロ本塁打。ヒットがつながらず、3-2の1点リードという僅差で5回を折り返した。

 6回、大阪桐蔭が1死二塁のチャンスを作ると、浦和学院が動いた。左腕・永島竜弥(2年)を投入してきた。身長190センチの右腕から165センチの2年生左腕にスイッチするのは、打者の目線を狂わせるための継投だ。

 しかし、小谷は永島をマークしていた。変化球主体、制球力のいい左腕。だから、ストレートではなくその変化球を狙う。前夜のミーティングで意思統一済みだった大阪桐蔭打線は一気に永島に襲いかかると、2四死球に3本のヒットを重ね、永島は1死も取れずに打者5人で降板。ベンチで「あの投手、来よったな」と西谷が小谷に目配せし、試合後も「データ班のお陰ですよ」と称えた。

 手書きの“小谷メモ”は、クリアファイルに入れて、ベンチに置かれる。小谷はベンチから試合を見ながら、その日の配球の傾向が違うと感じたり、打者の見送り方が気になったりすれば、ベンチ内で打者とデータとのすりあわせを行う。8月20日の準決勝・済美戦(愛媛)も、スライダーを多投するエース・山口直哉(3年)の「スライダーが思ったより速かった」。ただ、カウントが悪くなると、緩いスライダーが打者の肩口から入ってくると見抜いた。そのスライダーを狙っていくというチーム方針が徹底され、2-2の同点の5回、打者9人の猛攻で3点を奪った。

「プレーをしてくれているのは選手。そこに、ちょっとでも自分の取ったデータを生かしてくれたらうれしいです」

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金足農・吉田輝星の投球も徹底的に分析されていた