打者も、徹底的に研究する。まず、引っ張り型なのか、流し打ちのタイプなのか。その中で、小谷が特に注目するのは「ファウルの仕方」だという。

「打っているときのイメージは、すぐ分かるじゃないですか。その狙っている形があって、相手投手がどう崩したのか。ファウルのときって、バッターは一番イヤな感じじゃないですか」

 そうした“気づき”を、試合のビデオを通して、手作業でデータ化していく。これをB4版で1枚の資料に書き込んでいく。「いっぱい書くのも大変ですから」。ただ、これはまさしく、プレゼンテーションの基本。簡潔にまとめられた「試合のポイント」をもとに、試合前のミーティングも行うという。このやり方は、完全に「プロ」と同じだ。

 プロ球団ではいまや、対戦する全球団別に専属スコアラーをつけている。キャンプからオープン戦、レギュラーシーズンの試合をすべてチェック。すべての試合をデータ化した上で、そのチームとの対戦時には担当スコアラーがベンチ入りし、監督、コーチ、選手に適宜、事前のデータや相手の特徴を伝え、瞬時に戦略を立てていく。コースを9分割。投げたコース、打ったコースはタッチパネルでデータ化するので、即座にデータが集計され、グラフ化や図式化される。戦う前にまさしく、相手は丸裸になっている。

「9分割まではできないですね。そこまでやる時間もないんで」と小谷。それでも“小谷メモ”の正確さが如実に表れた試合がある。8月13日、2回戦で対戦した沖学園(南福岡)は、大阪桐蔭戦の先発に南福岡大会で2回1/3しか投げていない186センチの長身右腕・石橋幹(3年)を起用してきた。「投げたところを見たことがない投手でした」と小谷。データが揃わない初登板の投手を投入してくるのは、北大阪大会でもあった。大阪桐蔭のような強豪チームが相手だからこそ、相手の取る奇襲戦法だ。

 さしもの大阪桐蔭打線も“データなし”の投手に対し、3回までノーヒット。打順が一巡した4回に2点を奪うと、沖学園は5回からエース・斉藤礼(3年)をマウンドに送った。

 この斉藤に関しては、甲子園での1回戦のデータを徹底的に分析していた。投球のパターンはスライダーが軸。カウントを整えるのに、130キロ台後半のストレートを使ってくる。狙いは、その緩いスライダーか、早いカウントのストレート。先頭の井阪太一(3年)は二ゴロに打ち取られたが、3球とも110キロ台の緩い変化球だった。

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「よっしゃ、データ通りや」