「僕はメンバーを目指していましたけど結果的に外れた。じゃあ、春夏連覇のために何ができるか。今までやってきたデータ分析で、自分は“19人目のメンバー”なんだという意識を持ってやってきました」

 その言葉通りに、小谷はまさしく“選手の目と心”を持ったスコアラーだった。小谷は今後、プレーヤーとして野球を続けていくという。

「ビデオを見ていると、試合を落ち着いて見られる。バッターのこともじっくりと見ることができた。この経験を大学でつなげたいと思います」

 センバツでも、21世紀枠で出場した県立の進学校、滋賀・膳所の「データ班」の存在が話題になった。データを取り、相手を分析して、試合に生かす。それは勉強でいえば、事前の予習と同じだ。そうした分析やデータ処理にたけた高校生もいるだろう。データを生かしての野球。それはプロでも当たり前になったように、時代の趨勢でもある。

 こうした角度から、野球に取り組みたいという高校生も、きっとたくさん出てくるだろう。選手としてだけではなく、自分の“目”や“頭”を生かし、勝利に貢献するのもチームプレーだ。「記録員」は19人目の戦力――。大阪桐蔭が示した、その“先取の意識”が、2度目の春夏連覇という偉業の一助になったのは間違いない。自分たちでデータを集めて分析し、自分たちで攻略法を考え、試合に生かす。こうした姿も、100回目の夏を終えた高校野球の“新たなるスタイル”と言えるのかもしれない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。