甲子園、100回目の夏。
その長き歴史を語り継いでいく中で、松坂大輔が出現した「1998年」を欠くわけにはいかない。
「なんで、こんなピッチャーが高校生の中で、投げてるんよ? そう思ったピッチャーやったな。そういうピッチャーよ。見た瞬間に、こりゃドラ1(ドラフト1位の意)やわと。モノが違ったんよ」
夏の甲子園。そのネット裏で「20年前の松坂大輔」を振り返ってみて下さい-。
そう話を振ると、広島のスカウト部長を務める白武佳久の広島弁は、のっけから熱を帯びた。
当時、白武はスカウト2年目。広島とロッテでの現役生活12年間で通算39勝、13セーブをマークするなど、先発もリリーフもこなした貴重な右腕だった。広島は、若き逸材を見いだし、その力を伸ばしていく育成に定評のある球団だ。スカウトに求められるのは、そのための素質を見抜く「目」だ。「その時は見習いよ。勉強をさせてもろうとる時よ」と当時を振り返った白武だが、松坂を見た瞬間に「同じピッチャーとは思えんかったわ」。その驚きの原点は、松坂が投げる瞬間の“後ろ足”にあった。
ボールをリリースする瞬間、松坂の右腕が前方に鋭く、ビュンと振り下ろされる。その軸足となる「右足」が、体の後ろに“伸びたまま”になっているのが、松坂の特徴でもあった。
“蹴り足”となる右足で、リリースの瞬間に、投球プレートを蹴る。さらに右腕を振り下ろすことで、必然的に前方への大きな力が働くので、蹴った足も、それに引きずられるように前に出てくるはずなのだ。
「素人目に見たら、足が残っているじゃないですか? あれって、蹴っていないということなんですか?」
素直な疑問を、白武にぶつけてみた。すると、即座に返ってきた回答は「いやいや、あれが、理にかなった投げ方なんよ」。
白武は詳しく分析、解説してくれた。
「写真で見たら、一発で分かるんよ」
白武が絶賛した「松坂のシルエット」。それは、リリースの瞬間、体の前方にある右腕と、後方に残る右足が、横から見ると「見事に、一直線になっている」。それが、投手にとっては、理想の形なのだという。
力のあるボールを投げる。そのために、蹴り足によって生まれた下半身のパワーを、投げるボールに“乗せる”。ただ、それに伴って、普通のレベルの投手なら、蹴りの力に負けて、体が動いてしまうのだ。そうすると体の軸がぶれ、さらに腕を振り下ろすスペースが、体が前に動いた分だけ窮屈になる。