九州学院・吉本亮、東福岡・村田修一、沖縄水産・新垣渚、鹿児島実・杉内俊哉。佐賀学園・実松一成、日南学園・赤田将吾。九州の高校生だけでも、10人近くの上位候補がいたという。その「A評価」を下した担当地区の選手と、他の地区の選手と照らし合わせていく「クロスチェック」のため、小川は1997年秋、明治神宮大会に足を運んだ。横浜・松坂大輔という噂に聞く逸材は、果たしてどれくらいの力なのか。神宮で松坂が投げたのを見た瞬間、ネット裏の小川は「ホントに、ビックリした」と、今でもその瞬間に受けた心の衝撃が忘れられないという。

「これは、評価をすべてやり直さないといけない。化け物だな。ホントに思ったよ」

 先に挙げた選手でも、後にプロの一線級で活躍している。その並み居る逸材たちと比べても、松坂の力は抜きん出ていた。1954年生まれの小川は、1年年下の“怪物”を例に挙げて「時代は違うけど、江川(卓=元巨人)を見たときの衝撃と同じくらい」と小川はいう。そこから、その年の選手評価の基準は「松坂」になった。

 多くの逸材たちの隆盛を見続けてきた中田や小川、白武ら、各球団のベテランスカウトたちが、いまだに「すごかった」という、20年前の夏。甲子園での激闘が佳境を迎えている中、松坂は8月16日のDeNA戦(ナゴヤドーム)で、5勝目をかけ、今季9度目の先発マウンドに上がる。松坂大輔が甲子園を席巻した20年前の夏には、まだ生まれていなかった球児たちが100回目の甲子園を彩っている2018年。

 松坂の輝きは、今もなお、色あせることはない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。