「今でもダメな部分なんて、たくさんありますよ。ひな壇に馴染めないとか(笑)。でも僕は、ダメな部分を直すことよりも、皆がほめてくれる部分を伸ばすことに時間を使いたいんです。例えば、切り返しのボキャブラリーを1個でも多く増やすとかね」

「ダメな部分はあきらめました」と、けろりと話す山里さん。ちょっと悪い見方をすれば、開き直りのようにも聞こえてしまう。しかし、山里さんが下したのは「努力した結果、あきらめる」という選択だった。

「ダメなことをあきらめていい範囲っていうのは、努力した分だけ広がっていくと、僕は思ってるんです。努力して得た成果とポジションによって、だんだんと苦手な仕事をしなくてもよくなっていきますし。そうすると、より自分の得意なことだけに特化できるようになるから。そのために努力しないとって思う」

 あきらめないために努力するのではない。真剣に努力して、自分を追い込んだからこそ、「これは自分には向いてないんだな」とか「実は別のことのほうが得意だった」ということが、はっきりと見えてくる。だから、気持ちよく前に進める。

「ただ、得意な部分を伸ばせなかったら、全て中途半端で何もできないヤツになっちゃいますから。だから背水の陣でもあるんですよね。本気でやらないとやばいぞって、いつも思ってます」

 天才はあきらめた。だから天才じゃなくても、人を笑わせられる方法を考える。そのための努力をする。こうして「時々面白い」山里少年は、多くの人を魅了する芸人・山里亮太になった。(取材・文/澤田憲)