またある時、電話で「病院の近くのホテルに泊まっているので、夜は(患者を)戻してほしい」という問い合わせがあった。治療の関係で対応できず、入院してもらうことができなかった。のぬいぐるみの女性もそうだが、それから病院に連絡はないという。

 ぬいぐるみを愛するあまり、離れられなくなってしまう人がいる。堀口さんが聞いた話では、いつもぬいぐるみを片手で持っていて、着替える時も離すことができない子どももいるという。

「なぜなのだろう、と思いました。私もたくさんのぬいぐるみと一緒に暮らしていますが、治療のために離れられない、ということはない。患者様が入院している間も、ご家族が笑顔で過ごすにはどうすればよいのか。人とぬいぐるみとの関係をひもといて、ご家族の安心につなげたい」

 そう考えた堀口さんは現在、「ぬいぐるみとこころの研究所」の開設を進めている。病院に蓄積されたデータを生かして、人間がどうしてぬいぐるみによって笑顔になったり、涙を流したりするのか、といったメカニズムを解き明かす試みだ。近々、大学との共同研究も始める予定だ。

 他にも、入院中の患者の様子を家族が見られるシステムや、ぬいぐるみ同士が友達になれる「ぬいとも会員」の制度を導入しようと考えている。「友人や職場の人たちに『ぬいぐるみと一緒に暮らしている』と言っていない方もいらっしゃいます。患者様を通してお友達がほしいというご家族の希望も多いため、東京や大阪などのホテルでパーティーができれば楽しそうですね」(堀口さん)

 さらには、「ぬいぐるみ産婦人科」の開設も検討している。生まれてくるぬいぐるみの赤ちゃんの皮膚や目、口などパーツの素材から選び、定期的に病院に通ってもらいながら、完成させるイメージだ。赤ちゃんはベビーベッドに並べて寝かせ、完成したら退院する。

「患者様とご家族がずっと長く一緒にいられるよう、クオリティーの高い治療法を開発し、繊細なご要望にもお応えしたい。退院後も、患者様のご健康を末永くサポートさせていただきたい」と話す堀口さん。人とぬいぐるみとの関係の解明にも期待したい。(ライター・南文枝)