また、北条政子、淀殿と並んで“日本三大悪女”といわれる日野富子を主人公に選んだ理由は、「悪女として後世に伝えたものは『大乗院寺社雑事記』だけで、富子の実像は他にある。その実像を探ることは歴史ドラマの興味に繋がり、ドラマ展開の上ではサスペンスの要素も入るので極めてドラマチックな人物像を作り上げられる」からと語っている(『月刊ドラマ』1994年5月号)。

「淋しいのはお前だけじゃない」「異人たちとの夏」など“虚と実の狭間でドラマを醸成させる”市川森一らしい着想だ。

 富子,富子の夫の八代将軍義政(市川團十郎),山名宗全(萬屋錦之介),細川勝元(野村萬斎),日野勝光(草刈正雄),足利義視(佐野史郎)などの登場人物が、あるときは結びあるときは敵対してやがて応仁の大乱へと発展していく修羅地獄は、市川的“虚と実の極北ドラマ”といっていい。

 富子を演じた三田佳子さんはこう語る。

「三大悪女のひとりに数えられる日野富子を演じるなかで彼女の人生を知り、そのイメージは一変しました。富子は人が出来ないことをやった女性です。彼女の生命力についていけない人たちが“悪女”と呼んだのでしょう。彼女は男性社会に台頭した有能な女性だったのだと思います」。

 また、長期間に亘った撮影は自分自身ばかりでなくスタッフも相当に苦しかったようだ。

「私はどんな作品でも出演する限りは命をかけてやらなければと思っていて、大河ドラマの主演2作目となった『花の乱』もそうでした。撮影に追われた11カ月間、スタッフの粘りはすごかった。夜遅くなっても、美術の人なら風に吹かれる葦の一本一本まで手を抜かないのです。密度の濃い作品にしようと、みんな最期まで持てるエネルギーを出し切りました。私自身、富子の人生をいつくしみ、私の人生はからっぽになりました」

 しかし、三田さんの熱意やスタッフの努力にもかかわらず、視聴率は伸び悩んだ。

「花の乱」は、演者やスタッフの志が高くてもそれが視聴者に届くとは限らないことを実証してしまった典型的な大河ドラマだった。(植草信和)

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