試合中にトレードが発表され、移籍の決まった選手が、よりによって移籍先のチームを敵に回して戦うという珍事が起きたのが、93年6月25日のウエスタン、広島vs近鉄(藤井寺)。

 トレードが決まったのは、広島の内野手・野林大樹。88年にドラフト2位で近鉄に入団し、91年5月に清川栄治との交換トレードで広島に移籍したが、前年から1軍出場機会がなく、オフの整理対象選手になっていた。そんな矢先、古巣の近鉄が救いの手を差し伸べる形で金銭トレードを申し入れてきた。

 最終的に両球団の間で話がまとまったのが、前日の24日。翌25日午前9時ごろ、宿舎を出発する直前の本人にも通告された。

 そして、野林の近鉄への復帰入団が正式に発表されたのが、同日午後3時。まさに“近鉄野林"が、広島のユニホームを着て、近鉄と戦っている真っ最中だった。この日8番サードで出場した野林は3打数1安打を記録している。

 突然のトレード決定に現場も大混乱。当時の「スポーツ報知」によれば、広島は翌26日も近鉄戦が組まれていたことから、2軍マネージャーが「明日も彼は広島のユニホームを着てゲームに出るんじゃないですか」と首を捻り、野林本人も「明日のゲームに出るかどうかわかりません。今後のことは全部これからです」と当惑するばかりだったという。

 幸いと言うべきか、翌日の試合は雨天中止となり、2日連続の珍事は回避された。

 野林は現広島の中田簾とともに親子2代で広島のユニホームを着たことでも知られている。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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