こうした改正案がネット上で拡散し、「カメラを向けただけで犯罪になるのか!」「スマホを見ているだけでも、レンズは前を向いているから盗撮と疑われてしまうかも?」などと、多くの人に衝撃を与えた。さらには「恐ろしくて滋賀に観光に行けない」「県内でスマホを持ち歩けない」などと大騒ぎになった。しかし、これには大きな誤解がある。たまたま滋賀県が注目を集めてしまったが、その名称や罰則に多少の違いはあるものの、迷惑防止条例自体は全都道府県で施行されている。しかも、同様の改正案は他の都道府県でも施行されており、滋賀県だけの特例ではないのだ。

 改正のポイントは各都道府県でほぼ同じだ。たとえば、盗撮行為の規制場所については、従来は駅や電車などのみが対象だったが、学校や会社、タクシー内などに拡大。また、<設置>または<人に向ける>行為についても、改正前は盗撮目的でカメラを設置していても下着などの映像が確認できなければ取り締まれなかったが、改正後は写っていなくても盗撮目的が明確ならば取り締まれるようになったのだ。

 そもそもこの改正の本来の目的は、現行の条例ではカバーしきれなかった盗撮行為を取り締まるためにある。増加の一途をたどる盗撮犯罪。スマートフォンが広く普及し、カメラの小型化や高性能化も進んだことが拍車をかけたことは否めない。そうした現状に対処するため、条例改正による取り締まり強化は自然な流れといえよう。

 しかし、いくら「盗撮目的」という前提条件があったとしても、街中でスナップ撮影をしているときに、たまたまレンズの先に短いスカートをはいた女性が立っており、「盗撮された!」と騒がれたらどうなるのだろうか?

 また、実際は盗撮目的ではないにもかかわらず、その条文が拡大解釈され、ただスナップ写真を撮影していただけなのに誰かに通報されたり、警察官から職務質問を受けたりする頻度が増えるかもしれない。まさに「痴漢冤罪」ならぬ、「盗撮冤罪」の危険性を秘めているのだ。

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元刑事が語る「写真愛好家」と「盗撮犯」の違いとは