学園生活に不満がなかったわけではない。当時は、長い髪は三つ編み、靴下は三つ折りなど、規律が厳しかった。そこから「世の中の理不尽さを学んだ」と江國さん。

「逆に言えば、守ってもらっていたんですよね。目が届いていて、家族的で。家族って、すごく理不尽なものだから。全体として、おっとりしていて、勉強だけではないところも育てようとしてくれたことに、すごく感謝しています」

 現在、広尾学園の図書館には江國さんの本を集めた特別コーナーがある。折しも図書館の運営を務める職員は順心と広尾、それぞれの世代の卒業生だ。少女と大人の間で揺れる10代を描いた『いつか記憶からこぼれおちるとしても』をはじめ、多くの作品が広尾学園の生徒たちに愛読されている。

◯えくに・かおり
1964年、東京都出身。2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、12年『犬とハモニカ』で川端康成文学賞、15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。最新刊『物語のなかとそと』が朝日新聞出版より発売中。小説家は、どのように小説を読んでいるのか? 書くとはどのような経験なのか? 江國さんの「秘密」がひもとかれる一冊。

(文・仲宇佐ゆり)