そう言われれば、トウチャンと暮らした18年があまりにも強烈で、一緒にいたい相手の条件など考えたこともなかった。自己スペック点検同様、この千載一遇のチャンスに、改めて好きな男性のタイプや条件があるなら、考えてみようじゃないか。

 死んだトウチャンは無頼派作家と言われ、おおらかで男っぽい人だった。ギャンブル依存症でお金にだらしなくて随分泣かされたが、それを補って余りあるほどユーモアセンスが抜群に高くて、頭もよく、一緒にいて毎日が刺激的でとにかく2人して笑いっぱなしだった。私は面食いを自認し失笑を買っているが、それは自他ともに認めるイケメン、という意味ではなく、私の「好きな顔」をしているかどうか。これは説明不可能だが、どうにもこうにも好みの顔というのがあって、それは「好みのブサメン」も含まれる。たとえばトウチャンは子泣き爺顔だけれど、子泣き爺界では間違いなく抜群のイケメンだった(コナザイル)。

 本と映画は私の人生の必需品なので、一緒に楽しめる相手じゃないと無理だ。好きであってほしい。笑いのツボが一緒で、ワハハと大笑いする人が好き。恥の概念が共有できて、他人にいけずをしない人がいい。清潔感があって気持ちにピュアな部分が残っているのが理想だな。頭のいい人であってほしいが、それは学歴のことではなく、いわゆる「地頭のよさ」。お金……借金まみれにはさすがに懲りたが、自分で自分を食べさせることができる最低限の稼ぎがあれば十分で、仕事は誇りを持ってやっていればなんでもいい。そしてこれは絶対予測不可能だけど、私より長生きしてくれる人。再度先立たれるのは辛すぎる。

 私の理想の男性像は、考えてみれば特別な条件は何一つなくすべてささやかな願いのようだが、いくつも重なると結構ハードルが高い。死ぬほど寂しくて、自分自身のスペックもかなり厳しいのに、優しければ誰でもいい、というシンプルなことでもなく、これだけ外せない条件があったことに自分でも驚いた。

 そして実は個々の条件云々よりフィーリング。まさに人間は「相性」がすべてであることは、これまでの経験値から知っている。パートナーだけでなく、友人、さらにいえば親きょうだいですら相性が命。パートナーの場合、これに加えて、運と縁とタイミング。これが揃わないと付き合えないのだ。

 見合い相手(?)の完璧な釣書を眺めながら、バツイチボツイチ不良物件の私はいったいどんな釣書をお返しすべきなのか……パソコンのキーボードを前に何度も指が止まった (中瀬ゆかり)

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中瀬ゆかり

中瀬ゆかり

中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、 作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに。

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