苦手のクレーコートで真価が問われる大坂なおみ (c)朝日新聞社
苦手のクレーコートで真価が問われる大坂なおみ (c)朝日新聞社
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  クレーコートシーズンは楽しみ――?

 その問いに彼女は、目を見開いて口角を上げると「ノー!」と小さく抗議の声を出した。クレーコートは足元が滑りやすく、しかも滑ったかと思えば時折足が土に突き掛かり、転びそうになることが多いと言う。バウンド後に球速が落ちるため、彼女の武器である高速サーブの優位性も薄れがちだ。

「クレーとは、まだあんまり仲良くなれていないの」

 大坂なおみは、自身と赤土の関係性をそのような言葉で表現した。

 それら多少の苦手意識が、好不調時の振れ幅を増大させるのだろうか。今季の大坂の赤土での戦績は、やや両極端なものとなっている。先週のイタリア国際では、初戦で元世界1位のビクトリア・アザレンカを6-0、6-3で圧倒したかと思えば、その2日後のシモナ・ハレプ戦では12ゲームを連続で失う1-6、0-6の完敗を喫した。

 イレギュラーや、天候によるコンディションの変化が大きな赤土の上では、不測の事態にも揺らがぬ精神面の強さが求められる。ハレプ戦後の大坂は「普段なら入るボールがどういう訳か入らなく、何をしたら良いか分からなくなった」と言い、「今季そのように感じたのは、この試合が初めてだった」とも加えた。心身の安定が今季の大坂の躍進を支える最大の要因ではあるが、足元の安定せぬ赤土では、その真価がさらに試されると言える。

 今年の全仏オープンは、20歳の大坂が初めて“シード選手”として挑むグランドスラムである。3月のBNPパリバ・オープンの優勝により、大坂のランキングは21位まで上昇。その結果獲得した今大会の第21シードの地位は、3回戦までは自分より上位の選手と当たらないドローの位置づけを約束するものだ。実際、今大会の大坂が初戦で対戦するのは92位の米国人選手。その数字だけを見れば、大坂の圧倒的優勢が予想されるだろう。

 ただ大坂と対戦する19歳のソフィア・ケニンは、ここ最近の女子テニスで最も勢いのある若手選手の一人である。昨年9月の全米オープンで3回戦まで勝ち上がり、今年3月にトップ100入りを果たしたばかり。国籍は米国だが出身はロシアで、周囲や本人の自己評価は「努力を惜しまず、どんな状況でも必死に戦うファイティングスピリッツの持ち主」というものだ。

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クレー克服で上位進出を狙う