「試合に出ること、もうそれしかないです。試合に使っていただくのは監督が決めることですけど、僕がしっかり自分のプレーをして、必要だと思ってもらえれば使ってもらえるだろうし。しっかりチームのピースにはまれば、試合には出られると思うんで」

 16年の開幕前、目標を聞かれた坂口はそう答えている。実際にこの2年間は主力にけが人が相次ぐ中、時には痛みを抱えながらもグラウンドに立ち続けた。昨春のインフルエンザ発症時以外は一軍メンバーから外れることなく、2年連続でチームトップの155安打としっかり結果も残した。

 試合に出たい--。その思いはヤクルト3年目の今年も変わることはない。春のキャンプの時点では、レギュラーの座は約束されてはいなかった。ヤクルトの外野には、昨季のレギュラーだった坂口、バレンティン、山崎晃大朗のほか、14年のベストナイン外野手で、昨季後半は故障に泣かされた雄平もいる。さらにキャンプ直前になって、昨年までメジャーリーグでプレーしていたかつての「ミスター・スワローズ」青木宣親が復帰。つまり3つのポジションに、レギュラー級の選手が5人もひしめいていたのである。

 そこで、4年ぶりに復帰した小川淳司監督ら首脳陣が苦肉の策として打ち出したのが、坂口の一塁での起用だった。5人の中に、プロで本格的に一塁を守った経験のある者はいない。本来ならば真っ先に検討されるべきは、時に緩慢な守備も目立つバレンティンのコンバートだろうが、彼は既に一塁挑戦に失敗した過去がある。残る4人の中から、一塁を守るのは中学生以来という坂口が選ばれたのは、身長181センチと他の3人よりも「的が大きい」ことに加え、そのセンスの良さもあったはずだ。

 それでも、普通ならいろいろなプライドが邪魔して、簡単には受け入れられなくてもおかしくない。もうベテランの域に達している選手であり、外野でゴールデングラブ賞を4度受賞した守備の名手でもある。だが、坂口は前向きに受け止めた。

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プロ16年目で初の首位打者へ…