加藤崇(かとう・たかし) 1978年生まれ。FRACTA(フラクタ)CEO。2002年早稲田大学理工学部応用物理学科卒。東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ 銀行)等を経て、オーストラリア国立大学で経営学修士号(MBA)を取得。技術系ベンチャー企業社長などを歴任し、15 年から現職。カリフォルニア州在住。元スタンフォード大学客員研究員(写真・木村和敬)
加藤崇(かとう・たかし) 1978年生まれ。FRACTA(フラクタ)CEO。2002年早稲田大学理工学部応用物理学科卒。東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ 銀行)等を経て、オーストラリア国立大学で経営学修士号(MBA)を取得。技術系ベンチャー企業社長などを歴任し、15 年から現職。カリフォルニア州在住。元スタンフォード大学客員研究員(写真・木村和敬)

 銀行勤務、MBA留学を経て、人型ロボットベンチャーを起業。わずか2年でグーグルに売却し、注目を浴びた日本人が、加藤崇さんだ。現在は米国で新たな企業を設立し、AIを使った新事業に挑む。「早稲田理工 by AERA」(朝日新聞出版)で、母校・早稲田大学で出会った仲間たちとの思い出や、テクノロジー・ベンチャーをめざす若者たちへのメッセージを語っている。

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 2013年7月、加藤さんが共同創業者兼CFOを務めていた人型ロボットベンチャー「SCHAFT(シャフト)」がお台場でデモンストレーションを行った。幅の狭い階段やがれきの上を安定感抜群の二足歩行でスタスタと移動するロボット。当時グーグル副社長だったアンディ・ルービン氏はこれを見るなり「会社を買収したい」と伝えてきた。未来が開けた瞬間だった。こうして加藤さんはグーグルに会社を売却した最初の日本人になった。

「このときは興奮しました。ただその後、SCHAFTが『東大発ベンチャー』と紹介されたのは少し不満。開発者は元東大の助教ですが、ぼくがいる以上、早稲田の色もあるのですから」

■優秀でピュアな仲間と出会い語った日々

 母子家庭で育ち、生活は苦しかった。塾には通えなかったが中学時代、数学の成績は常にトップ。おかげで、学校ではスターになれた。

「科学に興味を持ち始めたのは中学の頃。当時のぼくにとって、出自にとらわれず頭脳だけで勝負できる科学の世界は、ロマンそのもの。なかでもとくにひかれたのが、物事のあらましや理(ことわり)を明らかにする物理学でした」

 早稲田を志したのは、母の影響だ。「早稲田に悪人はいない」。母の言葉はおおげさではなかったと、今も思っている。

「早稲田の4年間が青春のすべて。壮大な夢を照れもせずに語るぼくを面白がって、友人は“加藤節”なんて呼んでいました」

 大学3年のときに母が末期がんに。看病で授業に出られないとき、仲間はノートを貸してくれたり、実験を手伝ってくれたりした。

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加藤さんから後輩たちへのメッセージ