「コシウォンは、韓国の牢屋の半分以下の狭さと言われています。コシウォンに住んでいるということは、恥ずかしくて友人の前で言えません」(韓国の学生)。

 韓国で生活する上で、他人からの視線を意識せざるを得ないと指摘するのは、ソウル在住のノンフィクションライター、菅野朋子氏だ。

「韓国に住んでいると必ず訊かれるのは、『どこに住んでいるか』。住む地域によって他人の財力などを判断するのです」。

 こうした経歴重視の韓国社会を生きる若者に、五輪への関心を寄せる余地はない。そんな社会を加速させているのが「就職活動」である。

 菅野氏によると、韓国では若年層の失業率が深刻だという。

「就職難は悪化しており、働き口がないと言われています。そのため韓国より賃金が高い日本でアルバイトでも働いたほうがいいという人も多い。15日から韓国は旧正月で4連休でしたが、今年は帰省せずにひとりで正月を過ごす就活生が多かったようで、『独り正月』という言葉が飛びかいました。就職できなかった学生はアルバイトで生活をつないでいますが、賃金が安く、生活は苦しいようです」。

 韓国の労働者の最低賃金は、2018年1月に、時給6470ウォン(約645円)から7530ウォン(約750円)にアップしたものの、ぎりぎりの生活を強いられる。過酷な環境ゆえに若者たちが五輪に関心を持たないもの無理からぬこと。

「韓国の若者に聞くと、『今どき五輪?』という冷めた見方をしている。アイスホッケーの南北統一チームについてはその過程で物議を醸しましたが、統一チームそのものには関心はない。とにかく個人の幸せをどう実現していくかという個人主義が加速している。」(菅野氏)

 勝ち抜けど、勝ち抜けど、襲ってくる競争社会の波。韓国の若者たちには絶望感すら漂う。

「昔は、一生懸命勉強をやれば、なんとかのし上がれましたが、今はいくら頑張っても、上にいけない。努力しても無駄だという空気が蔓延している」(韓国の大学生)

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