それでも、巨人・益田プロスカウトは、こんな“計算”もしている。右肘の手術経験がある33歳のベテラン右腕・吉見一起と松坂を“セット”にする形で中10日、月2回程度、それぞれが先発するようなパターンを組む。2人で月に2勝、シーズンで10勝程度を挙げるようなことがあれば、「中日の星勘定は、だいぶ楽になるでしょうね」。

 球団関係者の話を総合してみても、森監督にも、その“皮算用”があるようだという。ナゴヤドームなら、天候で登板スケジュールも狂わない。投手有利といわれる広い球場でもある上に、話題性や観客動員にも役立つことを踏まえれば、このまま調整がうまくいけばという条件つきとはいえ、開幕直後は、松坂を「ナゴヤドーム限定」で先発させることを、一つの選択肢に入れているというのだ。

 現場にも、球団にも、松坂にも、悪いプランではない。むしろ、中日にとっては、ベストのシナリオだろう。

 その“希望的観測”が果たして、本当のものになるのか。名古屋という土地柄は、よそ者に対して厳しい一面がある。松坂獲得に主導的な役割を果たした森監督、友利国際渉外担当、さらに松坂本人も、名古屋出身ではない。“外様組”が、幅をきかせているともいえる現状に、決して快く思っていない、中日生え抜きのOBたちも多いと聞く。ただそれは、裏を返せば、松坂の復活劇に対して、高い注目度が集まっている証拠でもある。

「怪我をして、投げられない。だから辞める、諦めるということはしたくなかった。場所が変わっても、投げ切って終わりたい気持ちでした。ホークスで、リハビリをしていたとき、球場で待っている人たちが、僕に声を掛けてくれた。その声に応えたい。ホークスでは叶わなかったけど、場所は変わったけど、ファンの人に恩返しをしたい。その人たちのためにも、1軍のマウンドで、しっかり投げたい」

 「平成の怪物」と呼ばれた男が、平成という時代が終わろうとしているその時に、野球人生をかけて挑む、まさに最後の大勝負。本当に、マウンドで投げられるのか。その先のシナリオは、誰にもまだ読み切れない。だからこそ、その今後が、気になるのだ。

 松坂大輔の復活劇は、まだ序章に過ぎない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。