秋山は、自分の頭の中に浮かんだイメージを抽象化して、1人のキャラクターとしてまとめ上げる。それは、映画監督や雑誌編集者が仕事として日常的にやっている「編集」の作業に近い。膨大な量の素材の中から取捨選択をして、1つの筋道を作っていく。秋山は卓越した「編集力」によって、次々に面白いキャラクターを作り上げているのだ。

 秋山のなりきり芸には皮肉っぽい要素がない、というのも大きな魅力だ。この手のなりきり芸では、特定の職業や人物を揶揄するような姿勢が感じられることがある。ところが、秋山にはそれがない。ただ純粋に「それっぽい」だけなのだ。そこに演じる側の意図が紛れ込んでいないため、見る人は素直な目線でそのキャラクターを楽しむことができる。ここには、コント芸人としての秋山の「品の良さ」のようなものがある。それがこの爆発的な人気の鍵になっている。

 コントを演じる芸人は2つの種類に分けられる。高い演技力でさまざまなキャラクターを演じ分けられるタイプと、何をやっても似たような感じになってしまうタイプだ。実は、秋山はどちらかというと後者に属すると思う。顔も体つきもしゃべり方も特徴的であるため、何を演じても秋山は秋山、という感じがする。

 だからこそ、クセのあるキャラクターを演じているときにも、秋山という人間の個性が死んでいない。本人の特徴とキャラクターの特徴が絶妙な不協和音を奏でて、それが笑いにつながっている。いわば、秋山の「クリエイターズ・ファイル」とは、秋山本人とクリエイターたちのコラボ作品なのだ。

 年末には、そんな秋山が1人10役を演じるドラマ『黒い十人の秋山』(テレビ東京)が放送されることが発表された。離島のホテルで殺人事件が起きて、犯人捜しが始まるというのがストーリーの軸になっている。「容疑者全員ロバート秋山」という異色のミステリーだ。実にバカバカしい企画ではあるが、秋山のなりきり芸の集大成が楽しめる貴重な機会になりそうだ。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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