3つの魔法の日本語は、ほんの一例に過ぎないが、レギュラーのみならず、チーム全体をマネジメントすることにおいてラミレス監督は、細かな目くばり、気きばり、心くばりができていると言っていいだろう。それを意気に感じた筒香を中心とした若い選手たちは、能力以上の力を発揮する。

 そして多くの選手たちが初体験となった日本シリーズにおいて興味深かったのが、選手たちへの信頼が窺える立ち振る舞いだ。

 通常このような大勝負を迎えると、指揮官はミーティングなどを開き大号令を発するものだが、ラミレス監督は日本シリーズで3連敗した後も、とくに選手たちを集め話すようなことはなかった。

「今は言うよりリラックスしてエンジョイしてくれればいい。特に変えることなく、いつも通りやってくれればいい。いろいろ言ってしまうとプレッシャーになるだけだし『監督、うるさいな』と思ってしまう。わたしも選手時代、そういう経験がありましたからね」

 特別な舞台を日常へと導く――ラミレス監督は、筒香が言うように決してぶれない。

「監督として何も言わず静かにすることが、選手にとっては逆にいいモチベーションになると思います」

 残念ながら日本シリーズ制覇とはいかなかったが、シリーズ初戦の大敗以外は緊張感のあるゲームを演じ、プロ野球界において存在感を示したDeNA。選手層の薄さなど課題は山積みであるが、日本シリーズという未曽有の体験をした若い選手たちは果たして来季、データマンであり最高のモチベーターであるラミレス監督のもとどのような活躍をしてくれるのか、今から楽しみでならない。(文・石塚隆)