一方、予算にも人員にも限りがある民放のドキュメンタリー番組はやや分が悪い。ただ、その中でも、フジテレビのドキュメンタリー番組には昔からの伝統がある。『ザ・ノンフィクション』は1995年に始まった。フジテレビの系列28局が主催する「FNSドキュメンタリー大賞」というコンテスト企画も、1992年から毎年行われている。

 また、1989年に始まった『NONFIX』という不定期放送のドキュメンタリー番組も現在まで続いている。『NONFIX』は、民放としての制約に囚われない自由な番組作りに定評があり、のちに映画監督となった是枝裕和、森達也などの著名人が過去にディレクターを務めている。

 ピアニストの佐村河内守を追った『FAKE』、オウム真理教に密着した『A』『A2』などの映画作品で知られる森達也は、『NONFIX』で超能力者をテーマにした「職業欄はエスパー」、放送禁止とされた歌を通してメディアの自主規制の問題を掘り下げた「放送禁止歌 ~唄っているのは誰?規制するのは誰?~」などを手がけた。これらの番組は評判になり、のちに書籍化もされている。

 80年代後半から90年代前半のバブル全盛期には、バラエティとドラマが好調のフジテレビが全盛期を迎えていた。その勢いに助けられて、ドキュメンタリー番組の分野でも、ほかの局ではできないような実験的な企画やタブーに触れるような企画が次々に実現できたのではないだろうか。

 今回の『ザ・ノンフィクション』の企画ができたきっかけは、過去に別の番組で北九州連続監禁殺人事件を取り上げた後に、スタッフのもとに犯人の息子から直接抗議の電話がかかってきたことだった。彼は、メディアによって事件のことが蒸し返されることに憤りを感じていた。

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