辻監督は走者が一人出塁しても、お決まりのような送りバントをするわけではない。

 例えば、足が速くない走者が1塁に出塁し、打席に走力のある選手がいる場合は強攻策に出る。しかし逆の場合は、バントをさせる。

 なぜなら、前者はヒットでつなげればビッグチャンスになるし、凡打となったとしてもダブルプレーが崩れて早い方の走者が残ることになるからだ。

 逆に後者は走者の足が速いので、多少、強いバントをしても封殺されることは少ない。そう思ってバントをすればおのずと成功率も上がる。昨季より現時点での試合数が10以上も少ない炭谷の犠打が今年の方が多いのは、その証左だろう。

「投手対打者が1対1の対決になるケースが少なくなりましたね」

 走力が与える影響を語ったのは、現在首位打者の秋山だ。

 秋山はリーグ最多安打もさることながら、すでにキャリアハイを23も上回る86打点を挙げている。

 秋山も炭谷と同じように前後の打者とコミュニケーションを図っている。走力のある選手が塁上にいることで打席での優位性を持つことができると語る。

「今年は新人の源田が入って、外崎も加わって、シーズン途中から金子侑も戦列に入って盗塁を仕掛けています。彼らとのコミュニケーションを取る機会が増えました。今日の相手投手は(盗塁が)行きやすいのか、カウントによってじゃないといけないのか、それともいけないのか、と。それを分かっているのと、分かっていないのとでは、打席での考え方が全く変わります」

「盗塁が難しい相手と分かっていれば、早いカウントでストレートを狙いにいけますし、逆に、そこで変化球だったら、クイックが早くても(走者は)走るチャンスが生まれるわけですから」

 秋山に言わせれば、塁上にいる走者が盗塁をしやすいかどうかの事前知識の共有ができているか否かで、それは「初めて対戦する投手の打席くらい」に大きく違うという。走力のある選手がいればそれでいいのではなく、それを理解して攻撃につなげることが肝要なのだろう。

 さらに「配球も変わる」と秋山は続ける。

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